2006年9月21日木曜日

3_49 マントルの水5:水の由来

 マントルの水シリーズの最終回です。前回まで、マントルの遷移層に水が留まることができ、そして実際に存在する可能性も指摘しました。今回は、その水がどこから来たのか考えていきます。


 マントルには、ある程度水があります。それは火山ガスや地球深部に由来する岩石を調べることでわかります。
 火山噴火に伴うガスの成分には、水蒸気、つまりH2Oが多く含まれています。そのH2Oの由来は、水素の同位体(質量数の違う核種)から、知ることができます。マグマの水の多くは、地表付近の水に由来するものですが、一部にはマントルから由来する成分があることが確かめられています。
 また、マグマが上昇してくるときに、マグマの通り道にあった岩石の破片を取り込んでくることがあります。そのような岩石は、捕獲岩と呼ばれています。捕獲岩にも水を含む鉱物がたくさん見つかっています。これも、地球深部に水がある証拠となります。
 マントルでマグマが形成される範囲は、せいぜい100km程度の深さです。捕獲岩もマグマの形成場所より浅いところになります。ですから、マントル遷移層の400kmのような深さから、直接マグマが由来することはありません。ですから、直接の証拠は今のところはありません。
 しかし、このシリーズで今まで見てきましたように、遷移層には水がありそうだと分かってきました。では、そんな深いところに、どのようにして水がもたらされたのでしょうか。
 2つの可能性があります。一つはもともとあったというもの、もう一つは海の水がマントルに入り込んだというものです。
 もともと地球をつくった物質に、水の成分が含まれていました。それはあ惑星の材料物質の残りといえるある種の隕石には、水の成分が含まれています。水のような岩石と比べれば気化しやすい成分は、地球の形成期に地球の外側ずぐに移動していったと考えられます。海の水もそこから由来しました。また、地球の内部は高温高圧ですので、残っていた水も、マグマと一緒に地表にもたらされたと考えられています。ですから、地球深部の水は、ずべて地表に出てしまったと考えられます。
 しかし、ストロンチウムやネオジウムなどの同位体組成から、そのような水を含んだ材料物質が、地球の遷移層より下の下部マントルには、まだ残っている可能性が考えらています。その水が遷移層に溜まっていると考えられます。
 もう一つの可能性として、海水のマントルへの逆流です。海水といってもH2OやOHなどのことです。海洋プレートが海溝で沈み込むとき、海底で海洋地殻の中に溜まった水分は、搾り出されていくと考えられていました。しかし、マントルの物理条件が変化することによって、水を含む鉱物が、深部でも安定に存在できることが実験からわかりました。そのことから、沈み込むプレートと共に、地球深部に水が入り込む可能性がわかってきました。
 それのような変化は、地球が冷めていくことで起こると考えられます。7億5000万年前から5億5000万年前にかけて起こった事件だと考えられます。すると、大量の水がマントルに時期にもたらされることになります。しかし、その水の行き場所が今まで不明でした。それが、今回の報告で遷移層に蓄えられるという可能性がでてきたのです。
 どちらか可能性が正しのかまだ、判断できません。どちらもそれなりの根拠があります。しかし、今回の大谷さんたちの報告は、マントル深部に水が存在でき、地球史上の重要な事件の謎を解く可能性をも示したのです。

・謎を解く鍵・
大谷さんたちの報告の持つ意味を紹介しました。
今回でマントルの水シリーズも終わりです。
間も開いて、長い連載となりましたが、いかがだったでしょうか。
日ごろ当たり前に目にする水も、その由来をたどると、
なかなか複雑な経歴ありそうなことがわかっていただけたでしょうか。
そして大谷さんたちが、その複雑な問題を解く鍵を一つ見つけたのです。

・近況・
北海道はめっきり秋らしくなりました。
高山では紅葉の便りも聞きます。
いよいよ我が大学の長い夏休みも終わろうとしています。
北海道の9月はもう夏休みというには涼しすぎます。
我が家の子供たちは、急に涼しくなったので、
風邪を引いてしまいました。
夏休み前は夏風邪、夏は夏バテ、秋は風邪。
どうも今年の夏は、我が家では体調不良に見舞われています。
私はいつものように仕事に追われています。
どれも興味をもってやっていることなのですが、
やはり追われて仕事をするのはつらいものです。
でも、好きでやっていることですから、
愚痴は言わずやりましょう。