2006年3月30日木曜日

2_44 生物の分類3:種とは

 生物の分類を考えています。今回は、分類の一番基本となる種(しゅ)の概念についてみていきましょう。

 前回までのエッセイで、生物の分類は、2界からスタートして、5界分類になり、その後3ドメインへと変化してきたことを示しました。現在、一番一般的な分類は、動物界、植物界、モネラ界、原生生物界、真菌類という5つの界によるものです。そして、現在は、この界に基づいて、生物は分類されています。
 生物の分類のいちばんの基本になるのは、「種(しゅ)」という考えです。しかし、この種とは、実はなかなか難しい概念なのです。種の概念とは、分かりやすくいえば、同じ種(同種)と違う種(別種)とを、どう区別するかということです。
 種なんて、一見たやすいことことだと思えそうですが、多くの生物を見つけて、分類していくと、すべてに適応できる種の考えとは、実はなかなか難しいものであることが分かってきました。
 現在、マイヤーが1942年に提案した考えが、一般な種の考え方です(生物学的種と呼ばれています)。それは、自然の状態で、同じ地域で生きているもので、交配して子孫を残しているものを同種とみなすという考え方です。同地域に分布しても、交配しないで、子孫を残さないものは、異なる種と考えられています。
 かつて、種は形(形態)によって区分されていました(形態的種)。オスとメスでは形が違うことがありますが、オス同士やメス同士では形が違えば、別種と考えられました。しかし、形の違いと種の違いに、因果関係があるかどうかは不明です。つまり、種の差異がどのような形態に反映してしているのか、その根拠はあいまいでした。それに形態を区別するのに主観が入りやすいことも問題でした。
 現在では、そのようなあいまいさをなくすために、昆虫などでは生殖器、特に交接器の構造を用いて区別されています。このような種の存続にかかわるような特殊な器官を用いれば、比較的主観の入りにくい形態比較として有効な手段となっています。
 生殖器は動物などの複雑な体制をもつ生物に対して利用できるものです。それに、形態による分類では、見かけに大きな違いが生じる種では、適用が難しくなります。あるいはオスとメスがいる生き物で有性生殖するような生物でのみ使えるものです。
 有性生殖とは、生殖のための器官や細胞が、もう一つの生物と接合をして、生じた接合子から、新しい子孫ができるような方法です。動物の卵と精子による受精は、その典型的なものです。
 また、生物には無性生殖で増える生物がいます。無性生殖とは、ひとつの生き物が、他との生き物のなんのやりとりなしで、子孫を残す方法です。単独でも、発生(孵化、発芽)ができるものです。
 有性生殖をする生物でも、実際に交配を確認できるとは、限りません。ですから、マイヤーの種は、概念としてはわかるのですが、実際に適用するのはなかなか困難となります。
 単純に、自然の状態で生活している場が分かれていることを、種の重要な基準にする方法もあります。実験的には交雑可能であっても、自然状態で交配の可能性がなく、別の集団として分かれていれば、別種とみなす考えたかです。このような考えかたは生態学的種と呼ばれています。
 他にも、種の考え方には、進化の系統を考えたり、DNAの核酸塩基配列の類似性を基準にすることなどもあります。いずれにしても、種の概念は定義できても、すべての生物にその概念を適用することはなかなか困難なことのようです。
 しかし、生物は、そんな人間の思惑に煩わされることなく、今日も子孫を残しています。

・登別へ・
3月の26日から28日まで、登別に出かけていました。
私は、登別の火山を調べることでしたが、
家族は、温泉と登別にある水族館がお目当てでした。
私の調査のほうは、雪で思うようにできませんでしたが、
家族の方は大満足であったようです。
調査の様子は、別の機会に紹介します。

・歌での結びつき・
先週の金曜日に卒業式が終わりました。
わが大学では1000名以上も卒業生がいますので、
大学では、人数が多すぎて卒業式ができず、
札幌市内で大きなホールを借りての式でした。
卒業生の全員の名前を呼び上げて、卒業式が始まりました。
そのせいもあって、祝典がすべて終わるのに、2時間以上かかりました。
しかし、参列されている親御さんたちは、
自分の子供の名前が呼ばれるのは、うれしいことに違いありません。
私も何人も知っている名前をきき、考え深いものがありました。
高校までは、校歌を歌う機会があり、覚えることがありましたが、
大学では、卒業式と入学式くらいしか、聞く機会がありません。
しかし、私の卒業した大学は、
その当時まだバンカラの気風が残っていましたので、
校歌や寮歌を歌う機会があり、今でもまだ覚えています。
幸いなことなのでしょうか。
知らないOBや後輩が歌で結びつくこともあります。
しかし、現在の大学で、歌での結びつきというのは
希薄になっているのかもしれませんね。

2006年3月23日木曜日

2_43 生物の分類2:5から3へ

 前回は、生物の分類の歴史を見てきました。今回は、現在主に使われている分類と、最新の分類に対する考えを紹介します。

 生物の分類で、動物と植物の2界の分類から、モネラ界と原生生物界が新たに加わったところまで紹介しました。しかし、研究が進むにつれて、植物の中に性質の違ったものが見つかってきました。
 かつて、植物に区分されていたものの中に、菌類がありました。それは、菌類が、運動しないこと、細胞壁を持つことがその理由でした。ですから、この単純な構造は、葉緑体を失い退化してしまった植物だと考えられていたのです。しかし、菌類を詳細に調べていくと、体の外にある有機物を利用する(従属栄養)動物ような生き方をしていました。ですから、菌類は植物だけでなく、動物に似た性質ももっていたのです。動物は体の中に有機物を取り込んで栄養にしていましたが、菌類は細胞の外で分解酵素を出して有機物を消化し、細胞表面から養分として摂取していました。
 菌類は、細胞のつくりは植物に似ていて、生き方は動物に似ていました。でも、どちらとも違っていました。以上のようなことが分かるようになってから、菌類は、独立した界として認められるようになったのです。その結果、菌界、あるいは細菌類と区別するために真菌界と呼ばれるようになりました。
 現在では、分子遺伝学からは、植物よりも動物に近い仲間であることがわかってきました。
 以上のような分類の歴史から、生物は、動物界、植物界、モネラ界、原生生物界、真菌類という5つの界に分類されるようになってきました。
 分類の基準となるのは、体の基本的仕組みとして、DNAが核に入っているかいないかで真核生物(核を持つ)と原核生物(核を持たない)という区分がされました。さらに真核生物は、細胞がひとつで生きているのか複数集まって一つの生物として生きているのかによって、単細胞生物(細胞がひとつ)と多細胞生物(細胞が複数)に区分されました。
 これらとは別に、栄養の摂取法によって、独立栄養(光合成、化学合成)、従属栄養(吸収、摂取)によっても区分されています。これらの組み合わせから、5つの界に分類されていきます。
 最近では、遺伝子レベルの研究によって、違う分類の体系が考えられています。それは、ドメインと呼ばれるもので、イリノイ大学のカール・ウーズが提唱した説です。
 すべての生物が持っている(リボソーム小サブユニットRNA)遺伝子の塩基配列を調べて、その違いよって生物の分類をしようというものです。
 その結果、細菌類(真正細菌と呼ばれています)と古細菌(メタン細菌・好塩細菌・超好熱細菌など)は、今は同じ菌類に分類されているのですが、遺伝子のレベルで比べると全く違う起源を持つことがわかってきました。
 5界分類というのは、歴史的に人間が見た目で区分することが基準となっていました。そのため、見える特徴が重要視されていたのです。遺伝子の違いという分子レベルでみていくと、どうもまったく違った関係が見えてきたのです。
 動物界、植物界、菌界の真核生物と、真正細菌、古細菌の3つは、対等の分類学的地位を持たなければならないことがわかりました。真核生物間の違いより、真核生物、真正細菌、古細菌間の違いの方が大きいのです。そのため、真核生物ドメイン、真正細菌ドメイン、古細菌ドメインの3ドメイン説が提唱されたのです。
 これらの3つのドメインは、共通祖先である原始生物から、最初に真正細菌が進化し、その後に古細菌、真核生物が進化してきたと考えられています。そして、この考えは広くうけいれられてきています。

・春に吹雪・
今週はじめは、北海道は強い冬型の気圧配置となり、吹雪でした。
やっと春めいてきたというのに、
一気に冬に逆戻りしたようです。
家に来ているクリーニング屋さんは、
今年は例年より3週間も早く
冬物が出されるといっていました。
ところが、21日の昼間には
冬物のクリーニングをもってしました。
もともと火曜日がクリーニングの定期的な集配日で、
我が家には夜に来ていました。
ところが、冬物が急にいる用というので
あちこちから電話があったので、
あわてて届けているとのことです。
今年は、例年と少々違っているようですが、
こんな天気の繰り返しで、春になることは同じです。

・年度の終わり・
いよいよ明日が卒業式となります。
大学ごとに、卒業式の日は違っていて、
わが大学は明日行われます。
そして来週になると、教職員の送別会、
新任の教員の顔合わせ会などがあります。
年度の終わりの行事が連続して行われます。
しかし、私の年度の終わりは、忸怩たるものがあります。
それは、1月以降たびたびの風邪で体調を崩して、
思ったことがまったくできなかったことです。
まだ本調子ではないのですが。
でも、これも仕方がありません。
その遅れの責任はすべて自分に跳ね返ることになります。
そんなことは自分の中にとどめて、表に出さずに、
新たしい年度を迎えたいと思います。

2_43 生物の分類2:5から3へ

 前回は、生物の分類の歴史を見てきました。今回は、現在主に使われている分類と、最新の分類に対する考えを紹介します。

 生物の分類で、動物と植物の2界の分類から、モネラ界と原生生物界が新たに加わったところまで紹介しました。しかし、研究が進むにつれて、植物の中に性質の違ったものが見つかってきました。
 かつて、植物に区分されていたものの中に、菌類がありました。それは、菌類が、運動しないこと、細胞壁を持つことがその理由でした。ですから、この単純な構造は、葉緑体を失い退化してしまった植物だと考えられていたのです。しかし、菌類を詳細に調べていくと、体の外にある有機物を利用する(従属栄養)動物ような生き方をしていました。ですから、菌類は植物だけでなく、動物に似た性質ももっていたのです。動物は体の中に有機物を取り込んで栄養にしていましたが、菌類は細胞の外で分解酵素を出して有機物を消化し、細胞表面から養分として摂取していました。
 菌類は、細胞のつくりは植物に似ていて、生き方は動物に似ていました。でも、どちらとも違っていました。以上のようなことが分かるようになってから、菌類は、独立した界として認められるようになったのです。その結果、菌界、あるいは細菌類と区別するために真菌界と呼ばれるようになりました。
 現在では、分子遺伝学からは、植物よりも動物に近い仲間であることがわかってきました。
 以上のような分類の歴史から、生物は、動物界、植物界、モネラ界、原生生物界、真菌類という5つの界に分類されるようになってきました。
 分類の基準となるのは、体の基本的仕組みとして、DNAが核に入っているかいないかで真核生物(核を持つ)と原核生物(核を持たない)という区分がされました。さらに真核生物は、細胞がひとつで生きているのか複数集まって一つの生物として生きているのかによって、単細胞生物(細胞がひとつ)と多細胞生物(細胞が複数)に区分されました。
 これらとは別に、栄養の摂取法によって、独立栄養(光合成、化学合成)、従属栄養(吸収、摂取)によっても区分されています。これらの組み合わせから、5つの界に分類されていきます。
 最近では、遺伝子レベルの研究によって、違う分類の体系が考えられています。それは、ドメインと呼ばれるもので、イリノイ大学のカール・ウーズが提唱した説です。
 すべての生物が持っている(リボソーム小サブユニットRNA)遺伝子の塩基配列を調べて、その違いよって生物の分類をしようというものです。
 その結果、細菌類(真正細菌と呼ばれています)と古細菌(メタン細菌・好塩細菌・超好熱細菌など)は、今は同じ菌類に分類されているのですが、遺伝子のレベルで比べると全く違う起源を持つことがわかってきました。
 5界分類というのは、歴史的に人間が見た目で区分することが基準となっていました。そのため、見える特徴が重要視されていたのです。遺伝子の違いという分子レベルでみていくと、どうもまったく違った関係が見えてきたのです。
 動物界、植物界、菌界の真核生物と、真正細菌、古細菌の3つは、対等の分類学的地位を持たなければならないことがわかりました。真核生物間の違いより、真核生物、真正細菌、古細菌間の違いの方が大きいのです。そのため、真核生物ドメイン、真正細菌ドメイン、古細菌ドメインの3ドメイン説が提唱されたのです。
 これらの3つのドメインは、共通祖先である原始生物から、最初に真正細菌が進化し、その後に古細菌、真核生物が進化してきたと考えられています。そして、この考えは広くうけいれられてきています。

・春に吹雪・
今週はじめは、北海道は強い冬型の気圧配置となり、吹雪でした。
やっと春めいてきたというのに、
一気に冬に逆戻りしたようです。
家に来ているクリーニング屋さんは、
今年は例年より3週間も早く
冬物が出されるといっていました。
ところが、21日の昼間には
冬物のクリーニングをもってしました。
もともと火曜日がクリーニングの定期的な集配日で、
我が家には夜に来ていました。
ところが、冬物が急にいる用というので
あちこちから電話があったので、
あわてて届けているとのことです。
今年は、例年と少々違っているようですが、
こんな天気の繰り返しで、春になることは同じです。

・年度の終わり・
いよいよ明日が卒業式となります。
大学ごとに、卒業式の日は違っていて、
わが大学は明日行われます。
そして来週になると、教職員の送別会、
新任の教員の顔合わせ会などがあります。
年度の終わりの行事が連続して行われます。
しかし、私の年度の終わりは、忸怩たるものがあります。
それは、1月以降たびたびの風邪で体調を崩して、
思ったことがまったくできなかったことです。
まだ本調子ではないのですが。
でも、これも仕方がありません。
その遅れの責任はすべて自分に跳ね返ることになります。
そんなことは自分の中にとどめて、表に出さずに、
新たしい年度を迎えたいと思います。

2006年3月16日木曜日

2_42 生物の分類1:2からスタート

 生物には、いろいろな種類があります。だれでも、多様な生物を見ると、このように豊かな自然への驚きと、なぜそのような多様さが生まれたのか不思議な思い駆られます。そんな生物をどのように分けるかが、今回のエッセイの話題です。

 古くから人は、いろいろな種類のある生物を知り、分けてきました。記録に残っているものとしては、紀元前4世紀ころアリストテレスが、最初に分類学というものを体系的に確立したと考えられています。
 アリストテレスの分類は、私たちにも分かりやすい、2界分類と呼ばれるものでした。生物を、植物界と動物界の2つの界に区分したのです。
 植物とは根をおろし移動しないもの、動物とは移動して食べ物をあさるもの、というものでした。これは、誰にでも分かりやく、アリストテレスの多くの学問体系がキリスト教に採用されたこともあったため、この2界分類の方法が長く用られてきました。
 2界分類の方法は、実は19世紀まで、採用されてきました。19世紀になって初めて、2界分類に疑問がもたれるようになったのですが、その背景には、生物を詳細に観察するための顕微鏡の技術の進歩がありました。
 最初の顕微鏡は、16世紀終わりに、オランダで発明されたとされています。単純な顕微鏡を利用した観察でしたが、17世紀には生物学が大いに発展しました。
 18世紀末から19世紀初には、数学者のオイラーや光学者のドロントなどの研究によって、理論にもとづいた精密なレンズが設計され、収差の少ないレンズができるようになりました。19世紀中ごろには、ドイツのツァイスの工場で高性能の顕微鏡が作られるようになりました。
 高倍率でも鮮明に観察できる顕微鏡によって、生物を細胞レベルで観察できるようになりました。植物と動物は、多数の細胞が集まった多細胞生物というグループであることがわかりました。それ以外にも、一つの細胞だけで生きている単細胞生物がいることも分かりました。
 単細胞生物には、2界分類のような単純な分け方では、植物か動物かどちらに分けていいか判別できないものがあることに、科学者たちは気づきはじめました。
 単細胞生物を、顕微鏡によって細胞の中まで詳しく調べると、細胞内に核膜につつまれた核をもつものと、もたないものがありました。細胞内に核膜につつまれた核をもつものは真核細胞、核膜につつまれた核をもたないものは原核細胞と呼ばれます。植物や動物などの多細胞生物は、真核細胞の集合体でした。
 単細胞生物は、原核細胞からできている原核生物と、真核細胞の原生生物に区別できました。そして最終的に、バクテリアとシアノバクテリアなどの原核生物をモネラ界、原生生物はそのまま原生生物界として、新たが界が区分されました。
 新しい界が加わるということは、動物や植物に匹敵するような多様性を持つグループが見つかったということを意味しています。
 さらにその他にも、原生生物は、ミトコンドリア、葉緑体、進化した鞭毛などの特異化した細胞構造、つまり細胞小器官をもたないという特徴を持っていました。真核生物はすべて、ある程度の細胞小器官をそなえていることが分かりました。原生生物と真核生物には、どうも核のあるなしと共に、さまざまな特徴の違いも見つかってきたのです。
 このような生物の細部の構造を調べ、分類を詳しくしていくことによって、生物の進化につながるような情報も同時に得られるようになってきたのです。

・歴史を映しこむ・
生物は非常に多様で不思議なものがいます。
その一生は、信じられないくらい奇妙奇天烈なものがいます。
単純な分類で区分しきれない個性が、そこにはあります。
最終的にその区分しきれないものは
種というレベルまで、個性として持ち続けのです。
そのような個性は、あるときは進化による、あるときは退化による、
あるいは特化などと呼ばれることもあります。
しかし、なぜそうなったかの本当のところは、分かっていません。
研究者でも意見が一致しないことがたくさんあります。
生物は、長い時間の進化の後に今の姿になりました。
ですから、現在の姿に至る道筋(歴史)があったことは確かです。
しかし、私たちの科学が解き明かしているのは、
ある時点での一番もっともらしい歴史に過ぎないのです。
新しい分類方法が生まれたとき、最初は少数派ですが、
新しい証拠が出てくると多数派に変わりることもあります。
生物の分類の歴史とは、人間の科学や考え方の歴史をも
映し込んでいるのかもしれませんね。

・体調に注意を・
北海道は最近は不安定な天候で、
ここ数日寒く雪がちらつく日でしたが、
昨日あたりから暖かくなってきました。
今年の冬は寒さも雪もひどく
気温変化が激しいので何度も体調を崩しました。
これからは、卒業式、入学式、送別会、歓迎会など
行事の多い時期となります。
私は風邪のためにまだ不調ですが、
とりあえず今日、所属している学部の送別会があります。
私の他に2名が、他学部にできる新学科のスタッフとして配置転換になります。
その学科は小学校教員養成の学生数50名の
私立大学としては小さな定員の学科です。
昨年秋からこの学科設立のためにいろいろ忙しい思いをしましたが、
4月からは、学生を迎えての本番となります。
旧所属での仕事、新しい所属での仕事が混在した状態となります。
体調を崩さないように注意したいと思います。
皆さんも、移動の季節で宴会などもあるでしょうから、
体調にご注意ください。

2006年3月9日木曜日

3_44 雪考5:豪雪

 雪考シリーズの最後の回です。2006年の冬の豪雪は、いったいなぜ起こったのでしょうか、考えていきましょう。


 2006年3月1日、気象庁は、2006年の冬(2005年12月~2006年2月まで)に発生した大雪について、「平成18年豪雪」と命名しました。積雪を観測している339地点のうち23地点で、積雪の最大記録を更新しました。冬平均気温は、北・東・西日本ですべて低温になりました。12月の平均気温では、1985年以来20年ぶりに全国すべての地域で低温となりました。さらに、東・西日本では1946年以降の最低記録を更新しました。記録づくめの冬となったわけです。
 冬に雪が降るのは、分かりやすい理由があります。冬は北半球では太陽の光が傾き、日射量が減ります。大陸と海洋を比べれば、大陸は冷えやすく、海洋は冷えにくくなっています。
 大陸が冷やされ、シベリア東部から中国北部で冷たいシベリア高気圧が形成されます。シベリア高気圧は、南はヒマラヤ山脈にさえぎられているため、発達していきます。一方、暖かい太平洋(アリューシャンの南側)では温帯低気圧(アリューシャン低気圧と呼ばれます)ができます。
 このような状態は、日本から見ると西高東低の冬型の気圧配置になっています。大陸のシベリア高気圧から流れ出した乾燥した冷たい空気は、日本海上空で湿気おび、加熱されて、白い筋状の雲となって日本に流れ込んできます。この湿った空気が、日本の日本海側の山脈にぶつかり、雪を降らせます。
 豪雪となったは、シベリア高気圧とアリューシャン低気圧の気圧差が大きかったこと、そしてが西高東低の冬型気圧配置を持続していたこと原因だと考えられます。
 今年のシベリア高気圧とアリューシャン低気圧は、ともに非常に強く、大きな気圧差ができていました。気圧差が大きいと、風が強くなります。日本では、冬の季節風が強くなります。その気圧差が平年の1.6倍もありました。このように発達したシベリア高気圧とアリューシャン低気圧ができると、上空では北極域の寒気が中緯度まで流れ込みやすい状態となります。この2つの発達した気圧が、今年の豪雪の重要な要因となりました。
 西高東低の気圧配置を持続していた理由は、もともの冬型の気圧配置とは持続されやすい条件にあります。日本列島は、南西から北東に吹く偏西風の範囲にあり、上空の強いジェット気流が蛇行することによって、四季に変化を起こします。この蛇行は、偏西風波動と呼ばれています。春と秋には、6つから8つの山や谷をもっていますが、夏と冬には、2つか3つの波動になります。この波動が東に進んでいきます。つまり冬には、波動が少なく、波動の移動速度も遅く、冬型の気圧配置がしばらく続くことになります。
 それに加えて、強く発達したシベリア高気圧とアリューシャン低気圧が、偏西風波動を長く持続したのではないかと考えられます。
 今年の冬は気象庁が豪雪を命名するほどのものでした。記録づくめではありますが、実はこのような雪の多い冬は何度もあったはずです。年配の人は、今年のような大雪を何度か経験しているはずです。
 北海道では、昨年も大雪に見舞われて、雪捨て場に困るというニュースがたくさん流れていました。今年も昨年同様に大雪でした。しかし、長年雪と戦った経験と、昨年の苦い経験があるため、さらに本州の豪雪があまりに記録的だったので、北海道の豪雪はそれほどニュースになりませんでした。ここ数年暖冬だったので、油断していたのかもしれません。それに地球温暖化という言葉が流布しているために、冬も温かくなっていくという先入観があったのでないでしょうか。
 今回の豪雪が、日本の気候、自然の驚異と恵みについて考えさせてくれるきっかけとなること願っています。

・平成18年豪雪・
5回に渡った雪考シリーズも、やっと終わりました。
先週気象庁は「平成18年豪雪」と命名しました。
地震と豪雨には命名のための基準がありますが、豪雪についてはありません。
そのため、豪雪という命名は、あまり前例がなく、
1963年の「昭和38年豪雪」以来、43年ぶりとなります。
昭和38年豪雪による死者は18道県で118名になりました。
その他にも豪雪と呼ばれているものがありますが、
それは気象庁が正式に命名したものではありません。
例えば、1981年冬の通称「56豪雪」では、152名の死者・行方不明者があり、
1984年冬の通称「59豪雪」では、131名の死者・不明者数となっています。
昭和38年豪雪以上の被害があったのです。
今回の平成18年豪雪では、屋根の雪下ろし、除雪作業中の事故等により、
139 名(2月28日現在、消防庁調べ)の死者・行方不明者が出ています。
今回の豪雪は、本当に記録的な出来事だったのです。
今年の豪雪で亡くなれた方のご冥福を祈ります。

・経験の継承・
気象現象とは、毎日、毎年、同じように繰り返し起こるものです。
毎日、日が昇ると暖かくなり、日が沈むと寒くなります。
毎年、梅雨があり、夏は暑く、秋には台風が来て、冬は寒くなります。
このように気象現象とは、大局的に見れば、
同じ繰り返しをしています。
しかし、ご存知のように、毎日、そして毎年、その様子は違っています。
海洋、大気、地形など地球表層を構成するものが、
いかに複雑に変化し、
そして相互作用を及ぼしあっているかということを教えてくれます。
そんな複雑な連鎖が、暖冬や豪雪を生んでいます。
気象庁が、災害に命名するのは、
「大規模な災害における経験や貴重な教訓を後世代に伝承する」
なのです。
でも、人間は知恵があり、その知恵で自然との闘っています。
そんな闘いの経験を継承するためにも、
災害に名前をつけて、記憶、記録していくことも重要なのでしょう。

2006年3月2日木曜日

3_43 雪考4:風向き

 3月ともなれば、風のない天気の日には、ぽかぽかと暖かい春の日が訪れます。しかし、曇の日に風でも吹けば、気温以上に寒さを感じ、冬に戻ったような気がします。では、この風は、どのようにして起こるのでしょうかみていきましょう。


 風は、私たちに季節の移ろいを教えてくれます。春一番は春の訪れを、木枯らしが冬の訪れを告げ、日々の天気や季節変化も、風が伝えてくれます。風が起こる仕組みをみてきましょう。
 風は、空気が動くことによって起こります。空気は、大気の圧力に差ができると動きます。このような気圧の差によって生じる力を、気圧傾動力といいます。同じ気圧のことろを結んだ等圧線によって、気圧差の程度を表すことができます。気圧傾動力が大きいほど、空気が大きく動きます。つまり風は強くなります。気圧傾動力は、高い気圧から低い気圧に向かって、等圧線に直角に働きます。
 ところが、不思議なことに、風は、等圧線に直角になっていません。例えば、冬型の西高東低の気圧配置ができたとき、等圧線は南北に混んで並んできます。もしこのような条件であれば、風は西から東に向かって吹くはずです。しかし実際の風は、北風と呼ばれるように、等圧線に平行な風が吹きます。風によってできる日本海のスジ状の雲も、北から南に向かって並んでいます。どうしたことでしょうか。
 そのわけは、地球の自転が、風の向きを変えているのです。地表では、自転によって進む方向を曲げようとする力が働きます。この力をコリオリの力(展向力)と呼びます。コリオリの力が、空気の動きにも働きます。風を起こす力は、気圧傾斜力とコリオリの力の2つの兼ね合いによって決まってきます。
 北半球では、等圧線の高い方から低い方へ空気の流れは、進行方向に対して右に曲げられていきます。南半球では逆に左に曲げられていきます。その結果、等圧線と平行に風が吹きます。このような流れを地衡流(地衡風)といいます。
 台風のように丸い低気圧では、気圧傾斜力とコリオリの力の他に遠心力も働き、傾度風と呼ばれる風が吹きます。北半球では、低気圧に向かって反時計回りに風が吹き、高気圧からは、時計回りの傾度風が吹きます。
 ところが、風はなかなか一筋縄にはいきません。複雑な風を起こすメカニズムがあります。それは、地形です。例えば、ビル街には、その地域の風向きとは違った、建物によって変化した複雑で強い風が吹くことがあります。この現象と同じようなことが、もっと大きな地形によって起こります。地形によって、大気と地表に摩擦力が生じ、それが風向きを変えていきます。
 風が吹く強さや方向は、非常に複雑なメカニズムになっていくことが予想されます。摩擦のない、地球の自転と気圧傾斜力だけの場合を考えれば、単純にすることができます。実際にこのような条件は、地表から1km以上の上空では達成され、地形の摩擦の影響を受けない大気の流れとなります。
 地表の摩擦がある地表付近では、摩擦が地形によって変化するので複雑になります。一般に、陸上では摩擦が大きく、海上では小さくなります。摩擦が大きいほど風の力は弱まります。大気の流れるスピードが遅くなるとコリオリの力も弱まり、等圧線に向かって、北半球では右前方に曲がりながら風が吹きます。その曲がり具合は、海上では大きく、陸上では小さくなります。
 このような総合的な影響の結果が、これが、気象衛星ひまわりなどで見える冬型の季節風の風だったのです。しかし、この冬型の風が、雪の原因でもあります。それは、次回としましょう。

・雪考シリーズ・
雪考のシリーズも、予想以上に長くなりました。
でも、これでほぼ必要な説明は終わりました。
次回でやっと豪雪の説明というか仮説を紹介できます。
2月最初の一番寒い時期から書き始めた雪考でしたが、
とうとう核心にたどり着きそうです。
シリーズを書いているうちに、
三寒四温になり、天気のいい日には、めっきり春めいた日になります。
しょうしょう、時期を逸しているかもしれませんが、
豪雪について、あと少し考えていきましょう。

・春はもうすぐ・
いよいよ3月となりました。
日本の風習として、3月が年度の終わりとなります。
大学では、卒業、入学の準備です。
わが大学でも入試や入学の判定、
卒業や進級の判定などが残っていますが、
あと1ヶ月でいよいよ1年が終わるという気分になります。
そして、着々と新年度を迎える準備が始まっています。
春はもうすぐそこまで来ています。