2006年2月23日木曜日

3_42 雪考3:海流

 雪についての考察の3回目です。前回は、大気の状態をみて、中緯度の日本では、ジェット気流の乱れと、季節ごとの天候の乱れに関係があることを示しました。今回は、海の影響を考えてみましょう。


 海は太陽によって暖められます。しかし季節や緯度によって暖められる程度が変わり、温度差ができます。海水に温度差ができると、海水は均質になろうと移動します。海洋も大気と同じように移動や対流をするのです。
 大気の流れによる風によっても、海水は移動します。風は季節によって変化しますが、定常的な風が吹いています。風と海水自身の温度差によって、海流というものができます。大局的に見ますと、海流の方向と定常的な風の方向は、ほぼ一致しています。
 低緯度で暖められた海水は、高緯度に向かって流れます。暖流です。暖流が流れる沿岸は、同じ緯度の地域と比べて温暖な気候になります。さらに、暖流は大気も暖め、水蒸気が上昇気流で上がり、雲が発生しやすくなります。そのため、暖流が流れる沿岸は、温暖でなおかつ、雨量の多い湿潤な気候になります。日本の九州、四国、本州の太平洋沿岸は、暖流の流れによって、温暖で湿潤な気候になります。
 暖かい海水の流れができれば、海洋全体のバランスから、高緯度から低緯度へ向けて冷たい海水の流が生じます。これを寒流といいます。寒流の流れる沿岸は、同じ緯度の地域と比べて涼しくなります。寒流は、大気を冷やし、水蒸気の発生を抑えます。そのため乾燥した陸地が海岸付近にできます。
 熱帯地域でもこのような現象が起こり、ペルー海流という寒流によってチリのアタカマ砂漠がその好例です。
 海流は、200mから1000mほどの厚さで、200km程度の幅で流れていきます。そのスピードは毎秒数10cm程度ですが、黒潮のように速いものでは、秒速2mほどにもなります。
 海流は、大きく見ればほぼ一定の流れをつくっているのですが、詳細に見ると、大気の流れのように変動しています。黒潮は、日本列島の太平洋岸に沿って流れています。しかし、黒潮の流れが、大きく変動していことが知られています。和歌山の潮岬から、東海の遠州灘の沖合いでは、まっすぐ東に向かうときと、南に大きく張り出してめぐるときがあります。南に大きく張り出したときを、黒潮の大蛇行と呼んでいますが、この大蛇行は、いったん現れると数年間続くことがあります。
 太平洋のような大きな海では、多数の渦があることがわかってきました。それぞれの渦は、直径200kmぐらいの大きさがあります。これらの渦は中規模渦と呼ばれています。渦は、1000mほどの深層でも秒速数10cmほどの流れが観測されています。渦は、孤立して、暖かい海水(暖水塊)や冷たい海水(冷水塊)などが、数カ月から数年の期間できます。黒潮による冷水海は、2004年7月~2005年8月にわたってできていました。
 黒潮の大蛇行の有無のような変化は、海洋の熱の移動の変化となります。これは、熱の流れの変動として、大気への熱の流れの変動を起こし、最終的には気候に影響すると考えられています。
 これは黒潮に限ったことではありません。海流全体が同じような効果を及ぼすはずです。つまり、定常的な海流の流れの変動が、気候変動を導くことになりるのです。

・地球シミュレータ・
日本が世界に誇るスーパーコンピュータとして
地球シミュレータがあります。
現在ではそのスピードは第7位になっていますが、
2002年の運用時期には
それまでの最速を5倍も上回る性能を誇っていました。
しかし、地球シミュレータは世界最高速が目的ではありません。
地球シミュレータは、
海洋研究開発機構(旧 海洋科学技術センター)が開発した
国産のコンピュータ(NEC)を用いて、
地球のさまざまな現象をシミュレーションするための
専用コンピュータのことです。
上で述べた中規模渦にも地球シミュレータは使われました。
これまでのシミュレーションでは、
コンピュータの能力の限界によって、
中規模渦を再現ですることはできませんでした。
しかし、地球シミュレータを用いて、
現在では、中規模渦もシミュレーションできるようになりました。
例えば、
http://www2.es.jamstec.go.jp/fig_samp/ani_ssuv.gif
の50年間の海面流速分布図のアニメーションをみると、
黒潮の流れや中規模渦がよくみえますし、
海流の季節変化の詳細も見えます。
コンピュータによるシミュレーションを行えば、
非常にゆっくりとしか起こらない自然現象を
短時間で変化を見ることができます。
どこに変動の要因が潜んでいるかを探ることが出来ます。
地球シミュレータは長い時間かかって起こっている
自然現象の解明に有力な道具となっています。

・春の陽気・
ここ数日北海道は暖かい日が続きました。
朝夕は冷え込んでも、昼間は春のような陽気で
根雪がいっせいに融けはじめています。
春を思わせる陽気です。
しかし、まだ2月下旬です。
これからも雪は降るでしょう。
しかし、日に日に春めいてきます。
今年の冬は雪が特別多かったので、
一層、春が待ち遠しいです。