2005年12月1日木曜日

5_46 電波でみた宇宙と地球

 望遠鏡の進歩を概観しているシリーズです。今回は電波望遠鏡の思わぬ使い方を紹介しましょう。

 電波は、波の性質を持っています。その波の性質を利用して、電波望遠鏡では、奇抜で面白い観測ができるようになりました。そのいくつかを紹介しましょう。
 星から来る波を2つの電波望遠鏡で、同時に受け取ったとします。もし、電波の発信源の天体が一つのものであれば、同じ波として合成しても一つの波になります。ところが、もし波にずれがあると、干渉という現象が起きてわずかの違いも見つけやすくなります。
 干渉とは、波を重ね合わせたとき、同じ波であれば、山と谷が一致し、強めあう効果のことです。少しでもずれると、ずれに応じた縞模様が現れます。大きくずれると、干渉は起こらず、でたらめな波となります。ニュートンリングは、干渉のいい例です。
 この干渉という作用を利用すると、ほんの少しの波の違いが区別できます。前回、電波望遠鏡では、電波の波長が長いので、可視光の望遠鏡に比べると精度が悪くなると言いましたが、この干渉という効果を利用すると、観測の精度を格段に上げられる場合があります。
 ずれは、いくつかの原因によって生じます。一つは、届く波に変動がある場合と、もうひとつは受け取る側が変動している場合です。
 一つに見える天体が、実は2つの近接した天体である場合、天体と地球上にある2箇所の望遠鏡までの距離が、ほんのわずかですが違ってきます。するとその距離の違いが、電波の波のずれとして干渉として観測できることがあります。地球の遠く離れた場所の2つの望遠鏡で、同時に同じ天体を観測すればいいわけです。もし干渉が起これば、その天体は、2つの天体であったことがわかります。
 この方法は、1946年、マーティン・ライルたちが開発たものです。電波の受ける素子を開口と呼んでいたことから、開口合成と呼ばれている技術です。また電波望遠鏡を干渉を計る干渉計として用いることから、超長基線電波干渉計、VLBI(Very Long Baseline Interferometer)と呼ばれています。
 この干渉計の精度を上げるには、望遠鏡の間隔ができるだけ離れていた方がいいわけです。できれば、地球の直径より離せれば理想的です。つまり、地球外に電波望遠鏡の一つを置けば、非常に長い距離を取ることができます。そうすれば、より遠くの2つの天体の分離して見分けることができます。
 実際に、干渉計として用いるために、電波望遠鏡が、人工衛星はるか(HALCA)として1997年2月12日に打ち上げられ、遠くの銀河やクェーサーという特殊な天体の観測に利用されています。
 この技術を地球に転用すると、面白い観測装置になります。一つの星を地球の2箇所で測定します。もともと一つの天体から発信された電波ですから、電波望遠鏡の2つの間隔に応じた干渉が常に起こるはずです。しかし、ある時間間隔をおいて、同じ測定をしたとき、もし時間差によって干渉にずれが生じたとすると、電波望遠鏡の2つの間の距離が変化したことになります。そのずれは、非常に小さなものでも検出できるはずです。つまり、地球の2地点の距離を非常に正確実測できるということです。
 別々のプレートにある電波望遠鏡を用いて、その距離の時間変化を調べれば、プレート移動を正確に測定したことになります。このようにして、プレートの移動速度が実測されています。
 電波望遠鏡は、他にも、いろいろな利用がされています。ビックバンのときの光が、宇宙の背景放射として電波の波長領域で観測されたり、太陽のフレアから電波が出ているいことがわかったり、電離していない水素原子が発見されたり、パルサーと呼ばれる高速で自転する中性子星が発する非常に正確な周期の電波を発見したり、可視光では得られない情報を、つぎつぎと電波望遠鏡から得ています。

・未知の世界・
望遠鏡シリーズが続きます。
当初こんなに長くなるとは思っていませんでした。
概略は知っていたつもりですが、
調べていくと、つぎつぎと面白いことが分かってきます。
私たちの地球の外を見る目は、非常に多様になったということです。
そして、面白ことに、今回紹介したように地球の観測に
電波望遠鏡が使える技術が出てきました。
人は、本当にいろいろなことを思いつくものです。
人の知恵とは、尽きることがないのでしょうか。
そして、そこには新たな未知の世界が広げていくのです。
外をみる技術が、中をみる技術となったのです。
地球外の宇宙を知ろうとすること、
それは、実は自分とは何ものなかを知ることなのかもしれません。

・冬モード・
いよいよ師走となりました。
北海道は連日、変化の激しい日々が続いています。
基本的に寒い日が続いているのですが、
風がなく快晴であれば、ガラス越しの室内は暑いくらいになります。
でも、雪がしょっちゅう降り、朝夕は道路が凍ります。
まだ根雪には早いのですが、冬到来です。
子供たちは、冬靴と冬服で、冬の帽子で毎日出かけています。
自転車を乗ることもできなくなりました。
衣替えも終わりました。
我が家は、完全に冬モードです。