2005年9月1日木曜日

4_62 玄能石

 北海道の三笠に玄能石というものが見つかります。それを土産物屋で見つて買ってきました。玄能石について紹介しましょう。

 ゲンノウ(玄能と書きます)というものをご存知でしょうか。大工さんが使うカナヅチあるいはハンマーのことです。ハンマーは、小さなものをカナヅチ、大きなものをゲンノウと使い分けることもあるそうです。
 ところで、なぜハンマーのことを玄能というのでしょうか。源翁和尚という僧侶が語源になっているそうです。栃木県那須に殺生石というものがあります。その石が、いろいろな怪奇現象を起こしていたそうです。それを聞いた源翁和尚が、大きなハンマーでこれを割って、悪霊を取り除きました。これ以降、ハンマーを、源翁(ゲンオウ)から転じて、ゲンノウとも呼ぶようになったといわわれています。伝承ですから、本当のところは知りませんが。
 石にも玄能石と呼ばれるものがあります。その名称の由来は、石の形がゲンノウに形が似ているからです。私は、三笠産の玄能石を土産物屋で手に入れました。私が持っているものは、両側がとがっている10cmほどの長さのものです。
 玄能石は、ゲンノウ型以外にも、星型やコンペイトウ型のようなものもありますが、いずれもとがった形をしているのが特徴です。その形から、明治時代の考古学者は、石器だと見誤まっていたこともありました。
 玄能石は、変わった分布をしてます。日本では、フォッサマグナより北の地層から見つかっています。産地としてでは、福島、新潟、秋田、長野、北海道などが知られています。北海道では、三笠が有名です。ロシアやカナダなどの高緯度に位置する国々でも発見されています。つまり、玄能石は寒い地方の地層から見つかっていることになります。同じ地層から見つかった化石によっても、低温の海水域の海底堆積物の中で結晶したことがわかってきました。
 また、玄能石は、不純物を多く含んだ方解石(マグネサイトのこともあるようです)からできています。ところが方解石は、六方晶系というグループの結晶なのですが、玄能石の形は六方晶系の結晶の形とは違っています。
 もともとは別の晶系の鉱物で、その鉱物が何らかの理由で、方解石に置き換わったのではないかと考えられています。このようにある鉱物が別の鉱物に置き換わることはよくあり、仮晶(かしょう)と呼ばれています。
 では、もともとの鉱物は、なんだったのでしょうか。実は長い間、謎でありました。しかし、高緯度の地層から見つかるということが、重要なヒントになります。
 1963年、グリーンランド南西岸のイカ・フィヨルドの海底で炭酸泉の湧き出す周囲で、新鉱物が発見されました。地名からイカ石(Ikaite)と呼ばれます。イカ石は、ゼロ℃近い水から沈殿した含水炭酸カルシウム(CaCO3・6H2O)という成分を持つ結晶です。その後、1982年にも、ドイツの調査船が南極大陸の沿岸海底で、ガラスのように透明なイカ石の自形結晶を発見しました。
 海底から引き上げられた結晶の大きさは、6.5cmほどあったのですが、見ているうちに、透明感がなくなり、ばらばらの方解石と水とに分解したそうです。
 イカ石は、摂氏3℃以上(8℃以上という説もある)になると、水分をすぐになくし、ザラメ状の穴ぼこだらけの方解石に変化するという性質が明らかになってきました。幸いにもドイツの調査では、くずれる前のイカ石の写真がとられていました。イカ石は単斜晶系に属するもので、方解石の六方晶系とは違っていました。
 このようなことから、イカ石は玄能石と同じものであることがわかってきました。
 玄能石とは、冷たい地層の中で、イカ石の原型をとどめたまま、別の鉱物に置き換わりました。それ玄能石を、今、私は手にしているのです。自然の神秘を手にした気がします。そして、その神秘を解き明かした人類の英知も一緒に手にした気がします。

・グレンドン石・
白海に面したロシアのある村の砂浜には、
白っぽい丸石が打ち上がることがあります。
丸石の中に茶色のトゲトゲの石が入っていることがあります。
この石は、鉱物標本業者の間では、
グレンドン石(Glendonite)という名前で呼ばれています。
日本の玄能石と同じ種類のものです。
白海沿岸の海底には、永久凍土が融けずにあるそうです。
そんな冷たい海底でできたイカ石が、
海底から海岸に達するまでの間に方解石に変わっていったようです。
海岸に打ち上げられるグレンドン石にも神秘の歴史があります。

・イカ石の謎・
イカ石にはもうひとつ謎があります。
イカ石は単斜晶系の結晶です。
ところが、グレンドン石と呼ばれるものの中には
どうも違った形(他の晶系に属する)もあるようです。
そうなると、グレンドン石には、
別の起源のものもあるのかもしれません。
その謎はまだ解けていません。

・私の夏休み・
さてさて、とうとう9月になりました。
北海道は暑い日もありますが、
秋のさわやかな気候となってきています。
特に学校に行っている子供たちや子供のいる家庭では、
夏休みも終わり、あわただしい日常が始まっているでしょうか。
ところが北海道の我が家の子供たちは、
8月18日から学校が始まっています。
北海道は夏休みが短く、冬休みが長いのです。
ですから、子供たちは、もう夏休み気分は抜けています。
しかし、私の大学は9月一杯が夏休みです。
私もやっとさまざまな校務が終わり、
じっくりと仕事ができるようになりました。
いってみれば、これからが私の夏休みなのかもしれませんね。