2005年6月2日木曜日

1_44 古生代から中生代へ1:大絶滅の意味(2005年6月2日)

 しばらく間が開きましたが地質時代のシリーズを再開します。3月に古生代の話を書いたのを最後に、しばらく途切れていました。さて、今回は古生代と中生代の境界の話から再開しましょう。

 地球の歴史で、大量の絶滅が何度か起こっています。どの程度の絶滅があったかは、その絶滅の事件が起きる直前まで生きていた生物の化石の種類が、その事件でその程度絶滅したかで、見当が付きます。つまり全滅前後の化石の種類を調べ、どれだけ絶滅したかを統計ととれば、その絶滅の規模をだいたい見当が付きます。この方法は一見簡単にみえますが、当たり前のことですが、たくさんの化石が出る時代でないと使えません。
 この地質時代シリーズも紹介しましたが、化石がたくさん見つかるのは、顕生代(けんせいだい)と呼ばれる古生代の始まり(5億4200万年前)以降の時代です。生物が顕(あらわ)れた時代という意味です。つまり、生物が繁栄している時代ということです。もちろん現在も顕生代に含まれます。
 それ以前の大絶滅がどんなに大規模であったとしても、その規模を見積もることはなかなか難しいものです。たとえていうと、どんなに状況証拠がそろっていても、肝心の多数の死体が見つからないことには、その虐殺の様子や程度はわからないようなものです。私たちが生物の進化を定量的に知ることができるのは、今のところ、顕生代だけです。つまり45.5億年の地球の歴史の9分の1しか、正確な絶滅の証拠をつかめないのです。
 顕生代には、たくさんの絶滅があったことがわかっています。大きな絶滅の事件の多くは、時代の境界に用いられています。もちろん大きな絶滅があったのに、それが大きな時代境界になっていないこともあります。地質時代の境界は、学問の進展に伴って、必要に応じて、区分されてきました。今わかっているすべての情報が提示されて区分されたものではなく、そのときにあったデータでもっとらしいものをもととして区分されたものです。
 ですから、今から考えると、なぜそこに境界があるか、なぜそちらの境界の方が重要視されているのか疑問に思えるものもあります。しかし、このような矛盾を解消するに、十分な議論をしていかなければなりません。もし変えるとしたら、今までの研究成果の表現を、すべて読み替えることにしなければならないからです。それは、すごく混乱を伴うことになるからです。
 さて、大量絶滅の原因については、多くの研究があり、さまざまなものが考えられてきました。たとえば、気候の悪化、食物の悪化、病気、寄生虫、闘争、解剖学上のまたは代謝上の障害、種の老齢化、老化を示す過度の特殊化に向かった進化的浮動、大気の圧力のまたは組成の変化、有毒ガス、火山チリ、植物による過剰な酸素の生産、隕石、彗星、造山運動、卵を餌にする小型哺乳類による遺伝子プールの流出、捕食者の過剰な殺戮能力、宇宙線、洪水、地球の極の移動、大陸漂移などがあります。このあたりまでは、なんとなく科学的な根拠がありそうです。しかし、他の原因として、重力定数の変動、精神異常的な自殺因子の発達、エントロピー、太平洋海盆からの月の抽出、湖沼環境の排水、黒点などになると、それがどう大絶滅と結びつくのか、本当に起こったこのななか思えるようなことが原因となっています。さらには、神の意思、空飛ぶ円盤でやってきたグリーンハンターたちの襲撃、ノアの箱舟が狭かったなどなど、まさにありとあらゆる原因が考えられてきました。
 なぜこんなにもたくさんの原因が挙げれているかというと、大絶滅が起こった理由がなかなか究明できないからです。生物が生きていた環境は、海、土、大気など地表にあるもののいずれかです。それらの環境は、移ろいやすく、なかなか明瞭な記録を残さないからです。もちろん生物の柔らかい肉体は、他の生物のエサや栄養になります。運良く他の生物の栄養にならなかったとしても、長い時間を経れば、有機物は分解してしまいます。最終的に残るのは、化石と呼ばれる、石化したもの部分だけです。
 私たちが過去を調べるすべは、地層や岩石などの固体物質として残されたものだけです。化石ももちろん固体です。大気や海の記憶も、地層や岩石に刻印されていなければ、私たちは読み取ることができないのです。
 私たちがよく知っている恐竜絶滅は、中生代と新生代の時代境界で起こった事件です。地質学者も大いに関心を寄せています。その大絶滅事件で、まじめに議論されたものだけでも、65種類の原因が考えられたそうです。
 古生物学者や地質学者の多くは、一般に大絶滅が地球内の原因によると考えています。しかし、多くの研究者が納得している絶滅の原因で、唯一はっきりとしているのは、皮肉なことに、地球外の原因によるものです。それが有名な恐竜絶滅の隕石衝突説です。
 たくさんの大量絶滅の中でも最大のものは、古生代の終わりにおこりました。古生代と中生代の境界は、古生代の最後の時代であるペルム紀(Permian)と、中生代最初の時代である三畳紀(Triassic)の境界なので、P-T境界と呼ばれます。さて、次回は、その時代境界の話をしましょう。

・地質時代シリーズ・
地質時代シリーズを続けるのを、ついつい怠っていました。
地球地学紀行が連続していたためです。
これからは、忘れないようにこのシリーズを続けていこうと思います。
シリーズは、調べればいろいろと新しいことがわかってきて、
書き出すと長くなってしまいます。
でも、この「地球のささやき」は6つに分けて進めています。
それらを万遍なく書いていきたいと考えています。
もちろん、シリーズのようものは継続的に、
最新情報は、そのときにすぐに取り上げるようにしていきたいと思います。

・予兆現象・
Matさんから不思議な雲を見つけたという報告がありました。
それはもしかしたら、地震雲ではということでした。
私はそれに対して、次のようなメールを書きました。
「まず、地震雲については、私の専門とするところではありませんので、
その上での話とご了承ください。
現在のところ、地震雲と地震との完全な関連は、
まだ理論的には確立されていないはずです。
それは、地震の予兆に関しては、
残念ながら、完全な証拠が得にくいからです。
なぜなら、予兆現象に関する証拠は、
すべて後追いで提示され、記録されていくからです。
つまり提示される証拠に偏りがあるのです。
例えば、ある日何ごともなかったとき、
変な現象を見たと名乗り出る人は少ないでしょうし、
もし何もなければ、その現象は忘れ去られるでしょう。
でも、巨大地震があったときには、私はこんな現象を見た、写真を撮った、
という人がたくさん名乗り出て、証拠らしきものもたくさん集まるでしょう。
でも、それらの証拠が本当に予兆として特別な現象かどうかは、
注意が必要です。
何もないときにこそ、データを集めて、
特別な現象があったときと、比べることが重要になります。
もちろんそのような研究をなされている方もいるでしょう。
しかし、次の問題として、そのような予兆らしきものが、
地震とどのような関連があるかということを
論理的に証明にしなければなりません。
こと災害に関しては、不用意な仮説、あるいはあいまいな仮説を
研究者としては一般市民に向けて、安易に提示すべきではないでしょう。
人心を惑わすことは、不用意にすべきではないと思うからです。
それは研究者の倫理でもあります。
とりあえずは、学会でその説の正当性を、
多くの専門家の中で議論していくべきでしょう。
そのような意味で、地震の前兆現象は、
必ずしも、確立されているものではありません。
でも、今後、十分検討されるべきでしょうが。」
と答えました。
皆さんは、どうお考えになりますか。