2005年5月19日木曜日

4_58 メノウ:春の渡島半島2

 ゴールデンウィークの前半に、渡島半島を訪れました。海岸沿いでは風の強いところが多く、ヤッケが必要なときもありましたが、幸い天気に恵まれて、春めいた暖かい日の渡島半島を見て回りました。渡島半島の東側を回ったときに、黒岩というところがありました。今回は黒岩の話をしましょう。

 八雲町の町から北の方に10kmほどいくと、海岸線に山が迫ってきます。国道とJR函館本線が交差するあたりに、黒岩と呼ばれる集落があります。そこに、黒岩奇岩と呼ばれるところがあります。
 黒岩自体小さな町なので、注意していないと通り過ぎてしまいそうなところです。黒岩奇岩は、名所とされて、地図にも出ているのですが、目立たないために、見落としてしまいそうです。また、行こうと思っても、民家の庭先のような狭い道を通っていくので、ここでいいのかな思いながら進まなければなりません。着くと、小さな看板があり、トイレもあり、一応観光名所というべき目印があります。
 コンクリートの堤防を越えて、海岸にでると、なるほど奇岩とも呼ぶべき、ごつごつした岩礁が見えます。砂浜の中に、まさに忽然とあらわれます。あづまやがあり、その横には、赤く塗られた鳥居と、隣の岩の上にある祠(ほこら)に行くために赤い欄干の橋があります。名所らしい装いをもっています。
 この奇岩は、流紋岩という火山岩からできています。流紋岩という火山岩が観察できます。この流紋岩は不思議なつくりをしています。場所によっていろいろな姿に見えます。
 全体としては、ごつごつした岩ですが、場所によっては、いかにもマグマの固まったように見えるがっしりとしたところや、流紋岩という名前の起こりである流れるような模様のところあります。時には、枕状溶岩かのような放射状の割れ目もあります。数cmからこぶしくらいの大きさで丸い形をした石がたくさん含まれているところがたくさんあります。その様子は、一見すると、礫岩のように見えます。
 この火山岩は、マグマが海底で噴出したとき砕かれてできたものです。水中で壊されたものなので、ハイアロクラスタイトと呼ばれるものです。ときどき、白色や灰色、透明感のある丸い粒や脈のようなところがあります。これは、メノウです。大きいものや小さいもの、形も色も、いろいろあります。
 ここのメノウは、岩石がまだ熱い状態のときに、マグマと一緒に熱水も上がって来てできたと考えられます。熱水の中には二酸化珪素(SiO2)という成分も含まれていて、それがメノウをつくったと考えられます。二酸化珪素はメノウの主な成分です。
 メノウが見つかっても、うまく割れそうにもありません。私は、砕けた破片をひとつ拾ってきました。でも、よく見るとあちこちで、メノウを採ろうとした形跡があちこちにあります。もともとはきれいであったであろうメノウが、採集できずに砕かれて無残な形として残されています。
 黒岩奇岩の流紋岩とメノウは、看板にも書かれていませんから、一般の観光客にはわからないはずです。しかし、ここのメノウのことは、地質のガイドブックに紹介されているので、調べればすぐにわかります。私もそれを見て、ここに来たのですから。メノウに興味のある人たちが、取りに来るのかも知れません。あるいは私のような地質学者が採集するのかもしれません。
 私が訪れた春の黒岩奇岩には、ゴールデンウィークだというのに観光客は誰もいませんでした。近所の人が、何組か散歩に来ていました。多分この地域の人たちにとっては、身近で愛すべきところなのでしょう。そして、ここは祠もあり、大切に今も守っているところに違いありません。静かな観光地にも、いろいろな物語があったのようです。

・科学が教えてくれること・
流紋岩の中には、時々透明できれいなメノウが時折あります。
このようなごつごつとした岩の中に、
自然の美しさが隠されているのです。
その理由を科学は探ることができ、
そして解明できるのは、すばらしいことです。
私が見たところ、きれいなメノウは、あまり見当たらず、
あっても誰かが採ろうとしてしくじったのでしょうか、砕かれています。
奇岩を身近な自然と感じている人。
奇岩を信仰対象とする人。
奇岩より自然の神秘を見る人。
奇岩を科学の対象として見る人。
奇岩を観光資源とする人。
奇岩を寂れた観光地と見る人。
自然の造詣を我が物にしようとする人。
それをいろいろ思い巡らしながら見守る私。
いろいろな見方ができることを、
この黒岩奇岩から感じることができました。

・心で感じること・
八雲町で黒岩奇岩は、朝日の名所だそうです。
考えてみると東向きの海岸であれば、
どこでも朝日は海岸線から昇るのが見えるはずです。
あえて、ここが、名所とされるのは、多分、
この黒岩奇岩や鳥居や祠のシルエットを前景にして
朝日をみると幻想的な景色になるのかもしれません。
私が訪れたのは、午前中で陽は高く上っていました。
科学は、この奇岩の由来が
流紋岩のマグマであることは説明してくれます。
しかし、砂浜の海岸に忽然と現れる不思議さは説明してくれません。
そして、奇妙に思える気持ちだって説明してくれません。
そんなことは、科学の領分ではないのでしょう。
ただ、そのその不思議さを心で感じればいいのだけなのでしょう。

・砂鉄・
ここの砂浜には黒っぽいところと、
普通の砂のところがあります。
黒っぽいところは、砂鉄がたくさん含まれています。
黄色っぽいものや緑色っぽいものは、輝石です。
砂鉄とは磁鉄鉱のことで、
火山岩の中に含まれていたものが、集まったものです。
内浦湾一帯の海岸には砂鉄がたくさんあり、
かつては砂鉄をとっていたことがあります。
そんな思いで、ここの砂を、2種類持ち帰りました。