2005年1月13日木曜日

1_38 原生代3:全球凍結(2005年1月13日)

 昨年からの続きの地質時代シリーズの原生代の3回目です。今回は、全球凍結という事件について紹介します。

 原生代の終わりころに、赤道の海までも凍る激しい氷河期が地球を襲いました。その頃の地球を宇宙から見ると白い雪球のように見えるので、スノーボールアースあるいは全球凍結と呼ばれています。
 カリフォルニア工科大学クリチュヴィンクが、スノーボール仮説と名づけました。もともとこの仮説は、8~6億年前に見つかる縞状鉄鉱層を説明するために提示されたものですが、この説は忘れられていました。ところが、1998年、ハーバード大学のポール・ホフマンは、ナミビアの地層の調査と炭素の同位体組成から、この時期、大規模な氷河期あり、生物活動が停止したと考え、全球凍結説を唱え、広く研究者に認められるようになりました。全球凍結説を紹介していきましょう。
 全球凍結の証拠は、氷河堆積物や氷河地形などとして、原生代の終わりに各地で見つかります。
 氷河堆積物とは、氷河によって運ばれた堆積物のことです。氷河によって形成される岩石には、ティライト(氷礫岩)、ヴァーブ、ドロップストーンなどがあります。ティライトとは、粘土や砂岩の中に、大小さまざまな角礫をふくむ岩石で、普通の堆積作用ではできないつくりを持ちます。大陸氷床の下流に形成されます。ヴァーブとは、氷河の末端にできる湖の中で季節変化によってできる縞模様をもつ堆積岩です。ドロップストーンとは、氷河で運ばれた大きな石が、縞状の堆積物の中に落ち込んだつくりを持っているものです。
 氷河地形には、岩石につけられた氷河の傷跡の氷河擦痕(さっこん)やモレーンなどの氷河によって形成されたものがあります。
 氷河堆積物や氷河地形から、7億5000万年前から5億8000万年前までに、少なくとも2回の氷河期があったことがわかってきました。スターチアン氷河期(7億6000万年~7億年前)とヴァランガー(マリノアン)氷河期(6億年前)と呼ばれています。
 10億年前にできた超大陸ロディニアが、8億年前には分裂はじめます。分裂をたじめた大陸は、氷河期のころ、赤道付近にありました。現在、赤道付近で氷河は、標高5000m以上でないと形成されません。しかし、5000m以上の陸地は、そんな広く分布することはありません。ですから、7~6億年前の地球全体が、非常に冷たかったことを意味しています。
 ホフマンの説に基づいて、全球凍結のようすを紹介しましょう。
 7億7000万年前まで赤道付近にあった超大陸ロディニアが分裂をはじめ、6億年前には大陸は小さく分裂し赤道付近に広がりました。
 赤道付近の大陸では、雨がたくさん降り、大陸が侵食されます。激しい雨は、大気中の二酸化炭素を溶かし、大陸から持たされたイオンと結びついて、炭酸塩の沈殿物をつくります。二酸化炭素の急速減少によって、温室効果が下がり、地表の温度が急激に下がります。その結果、大きな氷が極地域の海にできます。広く白い氷は、太陽の光をたくさんはね返してしまい、地球を暖めるために使われなくなります。白っぽい地球は、寒冷化に拍車をかけ、この連鎖が悪循環をうみ、全球凍結へと向かいます。このような状況は暴走冷却と呼ばれます。
 暴走冷却によって、地球は一気に寒冷化を迎えます。これが全球凍結期となります。地球は、一番寒い季節を迎えます。全球凍結期の平均気温は-50℃、海面は1kmを越える厚さの氷に覆われていました。氷に覆われた海洋は、今まで海洋がおこなっていた役割を果たさなくなります。それまで、太陽光と地球の自転で、地球表層の温度を平均化する役割を果たしてきたのですが、その働きを、海洋はしなくなったのです。
 海洋から、大気への水蒸気の供給はほとんどなくなると、雨が降らなくなります。大気は、乾燥していき、氷に覆われずにかろうじて残っていた陸地も、冷たく乾燥した砂漠となっていきます。
 そんな全球凍結の時期もやがては終わります。火山活動は全球凍結期にも続いていました。火山活動によって二酸化炭素は、地球内部から定常的供給されていきます。その二酸化炭素が、雨が降らないことで、大気中にたまっていきます。全球凍結期が1000万年以上も続きますが、その間火山活動が続くと、大気中の二酸化炭素の濃度は、1000倍になります。
 大気への二酸化炭素の濃集によって、温室効果が促進され、暖かくなります。暖かくなっていくと、海の氷が融けて、やがて赤道付近では、海が顔を出します。急激に暖かくなることによって、海から大量の水蒸気が発生します。水蒸気も温室効果をもたらしますので、さらに激しい温室効果が生まれます。その結果、寒冷化のゆり戻しのような激しい温暖化がおきます。温暖期の平均気温50℃と推定されています。
 海水のマントルへの逆流、2度の全球凍結などの過酷な環境変化が、原生代の終わりの地球を襲います。しかし、その前後に生物は大きな進化を遂げます。事件の直前12~10億年前には、多細胞生物が出現しました。事件の直後、生命の大爆発とよばれるカンブリア紀へと突入します。それについては別の機会にしましょう。

・地質時代シリーズ・
地質時代シリーズも半分ほど終えました。
生物もそれなりの役割を果たしてきました。
しかし、これからは生物が活躍する時代です。
顕生代と呼ばれる時代です。
多くの多様な化石によって彩られる時代であります。
それらの時代を知るために化石は重要な証拠となってきます。
お楽しみに。

・屋久島と種子島へ・
正月明け、1月4日から11日まで、
私は、屋久島と種子島の調査に出かけました。
北海道から屋久島まで3回飛行機を乗り継ぎいで行きます。
家族も一緒の調査旅行ですので、費用もたくさんかかります。
その様子はいずれメールマガジンで紹介します。
10月末以来の久しぶりの調査でした。
調査もさることながら、
いい空気をすってリフレッシュしてきました。

・新しいメールマガジンの発行・
前にもお伝えしましたが、新しい月刊メールマガジンを発行します。
1年間、暖めた企画で、「大地を眺める」というものです。
大地の景観を、地形や地質のデータから眺めたら、どう見えるか、
毎回、日本の各地を題材にして見てきたいと考えています。
固いものではなく、読みやすいエッセイで綴ろうと考えています。
地形を鳥瞰しながら、大地の造形に隠された仕組みに、目を向けます。
1月15日に第1号を発行するつもりです。
http://terra.sgu.ac.jp/geo_essay/index.html
から申し込めますので、よろしくお願いします。