2004年4月15日木曜日

5_32 普遍的分類2:化学組成

 前回は、石の分類として、起源に基づいた堆積岩、火成岩、変成岩という分類は、惑星レベルまで普遍化をすすめて考えると、普遍とはいえなかったり、その起源が必ずしもはっきりしていないことなどを紹介しました。今回は、もっとも普遍的と思える方法を紹介しましょう。

 分類を普遍的にするために、石の「起源」という考えを捨てて、別の本質的な基準をもとに考えていきましょう。その候補として考えられるのが、石をつくる基本的な成分からみていく方法です。
 基本的な成分として、石をつくるより小さな粒である鉱物を基に考える方法もあります。でも、鉱物にも地域性があり、地球に固有と考えられる鉱物や、月固有、隕石固有の鉱物なども結構あります。そんな特異性をできるだけ除いていくべきです。
 成分も普遍性があったほうがいいはずです。一番普遍的な成分としては、元素というものがあります。元素は宇宙共通の基本的で普遍的な成分です。ある石を、どの元素がどれくらいの割合でつくっているかということを調べていく方法は普遍的です。この方法は、実際の研究でも非常によく使われています。石の化学組成と呼ばれています。
 化学組成は、すべての元素でおこなうことが理想です。しかし、現実には、それは、なかなか困難なことです。なぜなら、分析の方法が元素の種類や含まれている元素の量によって違っていきます。
 ですから、すべての元素の分析がなされているの石は、それほどたくさんありません。各国が提供している標準試料とよばれるものや、特殊な隕石、月の石くらいです。
 標準試料とは、代表的な岩石の粉を各国公的機関が国内外の研究者に配布し、その試料を基準として、研究室間の分析値に違いがないかチェックしたり、研究室の分析精度を示したりするのに使われます。もちろん日本でも、に経済産業省の産業技術総合研究所地質調査総合センターが配布しています。標準試料に関しては、ほぼすべての元素のさまざまな分析方法で出されたデータが集められています。また、世界中の標準試料とその分析データは一冊の本として発行されています。
 元素の含まれている量が多ければ、分析は比較的楽ですが、量が少ないと大変になります。ひとつの元素を分析するのに、ある研究所のある装置でしか分析できないということも起こりえます。ですから、すべての元素の組成がそろっているのは、その石がそれほど苦労してまで分析をするに値するものであるかどうかにかかっています。
 研究者が石の化学成分をすべての元素で欲しいとといっても、手軽に手に入れるわけにはいかないのです。ですから、岩石の中でも多い化学成分10種類くらいを分析して、それで分類や比較するということがおこなわれています。最近では、分析装置の進歩によって、同じ手順で、20種類くらいの元素が分析できるようになってきました。石だけでなく、石の成分である鉱物にもこの化学組成による研究は進んでいます。
 化学組成は、定量的で非常に客観的です。ですから、この手法は、どこの石にも適用できます。ただし、注意が必要です。
 化学組成が同じであっても、起源が同じとは限りません。成分が違っていても起源が違うとは限りません。化学組成は分析した石の化学的性質の保障はしますが、それ以外の情報を引き出すときは、化学組成の情報だけでは足りないということです。
 わかりやすい例として、しましま模様の石を考えてみましょう。白と黒のしましま模様の石です。もちろん、色の違いは化学的な性質の違いを反映しています。ですから、白の部分と黒の部分との化学組成は違っているはずです。でも、このしましま模様は、同じマグマが固まるとき一連の作用でできたとしたら、起源は同じと考えて研究していく必要があります。
 またこのしましま石をとって分析するとき、白だけの部分、黒だけの部分、白と黒の混じった部分では、化学組成が違っているはずです。また、同じ白や黒の部分でも、崖の上と下では、違っているかもしれません。
 今は白と黒の明瞭なしましま模様を例としてましたが、複雑なつくりをした岩石を分析をするとしたら、場所ごとに化学組成が違ってくるはず。そんなときはどうすればいいのか、どう考えればいいのか。などなど、一見普遍的にみえる化学組成を分類の基準として考えるときにも、一筋縄ではいかないことがありそうです。
 まだ、普遍的分類に対する答えは出てきません。もう少し続けて考えていきましょう。

・化学分析・
化学分析には、私は苦労しました。
3年間それにかかわったことがありました。
鉛の分析(正確には鉛の同位体組成といいます)の仕組みをつくるのに、
ゼロからはじめて3年かかりました。
鉛はどこにでもあり、簡単に汚染されます。
ですから、微量の鉛を精度よくするには
空気、水、薬品などありとあらゆるものの鉛汚染を
除去するということをやらなければなりません。
しかし、3年目には、なんとか世界の研究室の分析精度に
並ぶほどのまでに、たどり着きました。
日本で、地質学のそのような分析をしている研究室は、
当時、他にはありませんでした。
日本人の地質学者が出した鉛の分析値は、
すべて海外の研究所で出したものでした。
ですから、日本では、なにもかもが初めてです。
さまざまな論文を参考にしました。
しかし、論文には書かれてないノーハウもありました。
ですから、自分で工夫しながら試していきました。
まったくゼロからでも、集中して取り組めば、
数年で何とかなるものだということが経験できました。
この経験は私にとって何事にも変えがたいものでした。
このエッセイを書きながら。そんなことを思い出していました。

・春・
4月10日と11日に岐阜へいってきました。
今年はこれが最初ですが、
昨年は、3回通いました。
今年も何度か通わなくてはなりません。
岐阜は、桜がきれいでした。
満開は過ぎていたようですが、まだまだあちこちに咲いていました。
菜の花、つつじの咲いているもの見かけました。
研究の合間をみて、早朝宿から近い、金華山に登ってきました。
これで2度目ですが、
やはり、朝の空気の中をひと汗かくのは爽快です。
北海道でもやったそんな気分を味わえるようになってきました。