2004年1月15日木曜日

2_29 いくつもの絶滅:ビックファイブ

 生命は、顕生代に入っても、地球から試練にさらされました。それは、想像を絶するものでありました。しかし、生命はタフに生き延びたのです。そしてそのたびに進化を続けてきたのです。

 原生代末(カンブリア紀の直前、約6億年前)に起こった2つの大事件、つまり、海水の逆流による海水の塩分濃度上昇と、大氷河期は、生命にとっては、まさに存亡の危機であったはずです。しかし、生命は、なんとか生き延びました。生き延びた生命は、どれほどの種類、個体数かはわかりません。なぜ生き延びたか不思議なくらいの大事件です。
 しかし、多様性と進化という生命自体が持っている能力によって生き延びたはずです。そして、2つの事件が、続けさまでしたが、進化で対処できるほどのスピードで起こったという、自然からの時間的猶予という贈り物を利用して、生命は自分たちの能力を最大限に利用しました。その結果、生命は完全な絶滅を免れました。
 私は、生命にとっては、最大の危機は、約20億年前の「酸化地獄」だと思います。その次が、海水の逆流による塩分濃度の上昇と大氷河期による原生代末の大事件だと思います。しかし、これらの事件は、どの程度の生物種がその当時、生きていたのかの全貌はわかっていません。生命がたくさんいたということは、おぼろげながらわかっています。どの程度の絶滅であったかはわかりません。しかし、環境の変化の大きさという点からすると、20億年前と6億年前のものが、地球史上の2大事件だと思います。
 なんとか過酷な事件を生き延びると、あとに訪れる穏やかな時代は、より一層穏やかに感じます。そんな環境には、生命は敏感です。穏やかな環境で、大絶滅の後でライバルたちの少ない環境となれば、生命は大いに繁栄します。古生代のはじめりカンブリア紀は、そんな時代でした。しかし、古生代以降(顕生代という)にも、大きな絶滅が起こっています。顕生代の大きな絶滅のうち5つを取り上げて、ビック・ファイブと呼んでいます。
 ビック・ファイブの絶滅は、つぎのようなものです。時代順で見ると、4億3800万年前(オルドビス紀-シルル紀)、2億6700万年前(後期デボン紀)、2億5000万年前(ペルム紀-三畳紀、P-T境界と呼ばれています)、2億0200万年前(三畳紀-ジュラ紀)、6500万年前(白亜紀-第三紀、K-T境界と呼ばれています)の5つです。
 4億3800万年前の絶滅は、種の数で見ると絶滅率85%となり、顕生代では2番目の絶滅の事件です。3億6700万年前のものは絶滅率82%で3番目の絶滅で、1番の絶滅は、絶滅率96%の2億5000万年前のものです。2億0200万年前の絶滅は、76%で4番目の絶滅、6500万年前のK-T境界は絶滅率70%で、5番目の絶滅となります。
 ビックファイブの中でいちばん大きな絶滅が、古生代の中生代の時代境界になっているのは、もっともなことに見えます。もうひとつの顕生代の大きな時代区分は中生代と新生代の時代境界はK-T境界は、ビックファイブの中の5番目、つまりいちばん小さい大量絶滅となります。少し変ですが、そうなっています。時代区分は、一度決めると変更はなかなか大変なのです。
 K-T境界の絶滅が5番目とはいえ、絶滅率70%なのです。どの絶滅の事件も、絶滅率は70%を越えています。種類数で見ると、70%以上、最大で96%が絶滅するのです。そんな事件が、地球の歴史のほんの6億億年ほどの間に、5回も繰り返し起こっているのです。そう考えると、地球とは、決して生命にとって住みよいところではないような気がしてきます。
 でも、生命は地球で生まれ、地球で育まれてきたのです。もしかすると、このような大事件によって、生命は飛躍的進化をとげるきっかけとなったのかもしれません。
 まるで、「ノアの洪水」のように、地球環境の激変に対処できない生命は、洪水に飲み込まれいったのかもしれません。地球が、生命に課した適正試験、試練なのかも知れません。そしてそれらに合格したものには、洪水の引いた後の肥沃で穏やかな大地が与えられるのです。ノアの箱舟に乗りこんだ生命は、大いに繁栄したのです。
 進化とは、地球と生命の共同作業によって、できるものなのかもしれません。