2003年6月19日木曜日

5_22 大地は何からできているか(その1)

 地球の表面で一番たくさんある石は何でしょうかと聞かれたら、どう答えるでしょうか。多分、さまざまな答えが返ってくると思います。では、地質学的に見た場合、答えはどうなるか見ていきましょう。

 地球表面をつくるものはどのようなものでしょうか。これでは、漠然としているので、とりあえず、陸地をつくるものとしておきましょう。
 この質問に対して、ある人は堆積岩、ある人は花崗岩、火山岩、変成岩などと答えるでしょう。またある人は、石なんかなくて砂や土だというかもしれません。このようなさまざまな答えが出るのは、2つの理由があると思います。
 ひとつは、大地をつくるものというと、いちばん表層の物質を見ている可能があることです。もう一つは、自分たちの住んでいる地域のものを頭に描いて答えるので、それぞれの地域の特性を反映している可能性があることです。
 日本では、大地の表面の多くの植物が覆っています。すると植物の下には、1メートルほどの土壌があります。それを想像した人には、石なんか大地にはないという答えが出てきます。でも、大地には石はないのでしょうか。あってもその地域には少ししかないのでしょうか。あるいは、地球の大地には、石はとてもまれなものでしょうか。
 高山に行くと植物がなくなり、土壌もなく岩だらけの地面が広がるところもあります。ですから、地表にはつねに植物や土壌があるとは限らないのです。山の工事現場や海岸の切り立った崖では、硬い岩盤がでていたり、地層が出ているところを見たことをある人もいるでしょう。つまり、地下のどこでも土壌があるわけではないです。
 また、岩盤が広がっているところでも、地域によって、その岩盤の種類は違ってきます。例えば、日本でも、大島、普賢岳、有珠山の近くくすむ人は火山岩で大地はできていると思っているかもしれません。神居古潭渓谷に住む人は変成岩の大地だと思うでしょう。他にも、秋吉や四国山地のように石灰岩の広がるカルスト地域に住んでいる人もいるでしょう。六甲山や目覚めの床の近くの山地では、花崗岩がつくるきれいな大地に住む人もいるでしょう。大谷石の産地では凝灰岩の大地もあるでしょう。鳥取砂丘の近くに住む人は、岩盤なんかなく大地は砂ばかりという人もいるでしょう。このような地域の人に住む人は、土壌は、大地の主要なものではないと考えるかもしれません。
 日本でもこれくらいの多様性があるのです。もし、世界中の人に聞けば、もっとさまざまな答えが返ってくるでしょう。極地に住む人たちは、氷や永久凍土が大地をつくっているというでしょう。ヒマラヤやアルプスの山地に住んでいる人は、氷河に削られた大きく褶曲した地層が大地をつくるものだというでしょう。砂漠、湿原、草原、森林など地球の表層はさまざまなものが覆っています。
 このように考えを進めていきますと、身近なものだけで判断してはいけないということがわかるでしょう。さらに、一番表層にある物質だけを基準に考えると、大地を構成する間違った判断を下す可能性があると思えてきます。
 このような比較を厳密にするためには、表層にある薄いものだけ基準とせず、地下に深くに厚く広がっているものを基準としたほうがいいのではないでしょうか。
 このような考えで、地質図というものはつくられます。地質図とは、大地を構成している岩石あるいは地層に基づいて描かれています。表層の薄い土壌や植生は無視して描いてあります。実際の量は次回見ていきましょう。

・素朴な疑問シリーズ・
素朴な疑問シリーズが続きます。
今回は大地にある岩石はどんなものかです。
本当に大地をつくる岩石がどんなものか
多くの人が納得する答えがあるのでしょうか。
答えは次回ですが、
そんな方法も考えること大切です。
なぜなら、それが地球表層の平均的な岩石、
あるいは組成を知ることにつながります。
さらにそれは、地殻や地球の平均値を知ることになります。
それは、地殻や地球のでき方へのヒントなります。

・大気と海洋の関係・
Shiさんから、石灰岩に関連して、酸性雨について質問がありました。
その質問に私は以下のように答えました。

酸性雨と二酸化炭素の関係についてですが、
酸性雨はどんな時代もありました。
それは、大気中に火山などで放出された成分(硫化水素など)が、
水に溶けて酸になって酸性雨となります。

有史としては残っていないような大噴火があったことも
地質学的記録には残っています。
そんな噴火の時には、酸性雨となる成分を大量に放出します。
これが陸地の固体にかかると、溶けやすいものは、溶かします。
その溶けやすいものには、石灰岩も含まれます。
大噴火でなくても、ある一定の量は雨に含まれています。

これは、長い時間、地球の表面では行なわれてきた作用ですし、
人類が関与しなくても行なわれてきたことです。
その一端が石灰岩地帯にみられる、カルストであり、鍾乳洞です。
このような作用の結果、陸地に蓄えられた石灰岩が、
そのまま永久に固体として陸地に残るのではなく、
少しずつ大気や海に帰っていくのです。
このような作用は、二酸化炭素の地球表層の大きな循環といえます。

人類が酸性雨のもととなる各種の酸を増やしたので、
一時的に酸化が進んでいます。
でも、これは、地球としてはじめての経験ではなく、
もっとはげしいことをおこっています。
上で述べたような大噴火のときや地球初期もそうだったはずです。

酸化によって固体から出てきた成分は、
イオンとして液の中に溶けようが、気体として大気にでてこようが、
長い目で見れば、大気と海洋(あるいは雨)との平衡関係によって、
ある一定値となるはずです。
そのような平衡になる時間は、
大気や海洋での滞留時間としてある程度わかっています。

この平衡にかかる時間は、人類にとっては長い時間ですが、
地球にとっては、かなり早い時間としてとらえられます。

地球的視点で捉えれば酸性雨はたいしたことはなく、
よくある出来事となります。
人類の視点で捉えれば、人類にとっての地球環境問題となります。
人類的視点で考えるときも、
地球や他の生物をどの程度配慮するかは明確にすべきでしょう。
いままでの議論は、このような立場や視点を曖昧にされている場合が
多いような気がします。