2002年11月28日木曜日

1_17 宇宙からの贈り物(2002年11月28日)

 私の机の引き出しの中には、3つの石ころかがあります。石ころといっても、ちょっと変わっています。ひとつは、一見なんの変哲もない石ころです。もうひとつは、鉄でできています。さいごのひとつは、石と鉄が混じったものです。今回は、そんな石ころの話です。

 地球の表面には、酸素があります。また、地球の大地をつくっている岩石は、ほとんどが、酸素とくっついています。つまり、酸化物となっています。ですから岩石といえば、酸化物のことになります。それは、地球の表面に酸素があるというだけでなく、地球をつくっている岩石自体が、酸素をたくさん含んでいるのです。これは、宇宙で当たり前のことなのでしょうか。それとも、不思議なことなのでしょうか。
 それを調べるには、他の惑星たちを見てみればいいのです。幸いなことに、私たちは、他の惑星について、いくつもの探査機を派遣して、その表面の様子を調べています。ですから、地球ほどではないですが、それぞれの惑星がどのような表面をもっているかを知ることができます。
 その結果、地球と似たような惑星(地球型惑星といいます)である水星、金星、火星の地表は、地球の岩石と似た、酸化物からできてることがわかりました。どうも、このような「石」が、惑星をつくる材料となっているようです。
 ところで、私の机の引き出しの中にある3種類の石は、実は隕石です。
 石からできてる隕石は石質隕石といい、鉄からできるいる隕石を鉄隕石(あるいは隕鉄ともいいます)、石と鉄からできている隕石は、石鉄隕石といいます。これが、私が、個人的に買って、持っている石の素性です。そんなに高いものではなく、数千円で買ったものです。
 特に、石鉄隕石は、石の部分が、オリーブ色で透き通っていてきれいです。オリーブ色ところは、かんらん石という鉱物でできています。このようなタイプの石質隕石は、パラサイトとよばれる種類のものです。
 隕石は、単にきれいととか、珍しいというだけでなく、地球の歴史を解き明かす重要な秘密を持っていたのです。
 隕石は、大きくみると、上で述べたような、石質隕石、石鉄隕石、鉄隕石の3種類に分けられます。なかでも、この石鉄隕石は、不思議なものなのです。
 鉄は酸化物ではありません。かたや、かんらん石は酸化物です。それが、混じって塊となっているのです。かんらん石は、地球のマントルや海洋地殻の主要な成分です。そして、かんらん石の成分として、鉄が含まれています。かんらん石の中の鉄は、酸化物です。
 このようなものをつくる環境は、なかなか考えにくいものです。まったく化学的な環境が違うものがくっついているのですから。できそうなところしては、実験室のようなサイズではなく、多きなサイズ、たとえば、数百から数千kmの惑星規模を考えれば、酸化状態と金属状態が分離されていても、化学的境界部でもこのような混合部分が生じるはずです。
 さらに不思議なことに、地球では、このような鉄とかんらん石が、きれいに混じっているものはつくれません。なぜなら、鉄とかんらん石は、鉄が7.86、かんらん石が3.2で、2倍以上の比重の違うものが、よくば混ざることはなく、分離します。これは、重力が邪魔をしているからです。ですから、石質隕石は、重量の影響を受けないところか、あるいは、金属の鉄とかんらん石が上下に層をなしている境界部分しかできそうにありません。
 結論として、石鉄隕石は、今は亡き小さな惑星(微惑星といいます)が、割れて砕けたものだと考えられています。この小さな石ころは、惑星の奥深く形成されたものです。それはどんなところでしょうか。この小さな石ころは、私の想像力をくすぐってやまないのです。

・隕石シリーズのスタート・
今回から数回(回数はまだ未定です)にわたって、
隕石シリーズを連載します。
隕石からどんなことがわかるのでしょうか。
そして、どんな地球や太陽系の歴史、
あるいは想像もしないようなことが
読み取れかもしれません。
そんな隕石にまつわる話を紹介していきます。
その第一弾として、今回は不思議な石質隕石を紹介しました。

・隕石の名称・
私が持っている石質隕石は、
15×12×5mmほどの小さいものです。
パラサイトとよばれる種類で、
名称はエスケル(Esquel)と呼ばれています。
隕石の名称は、隕石が落ちたところ、
あるいは、発見されたところの地名をつけます。
ですから、小さな田舎町で、聞いたこともないような名前だったりします。
エスケルは、アルゼンチンのチュブート(Chubut)という地域にあります。
もちろん、エスケルは、
私もいったことも、聞いたこともない、
まったく知らないところです。

・隕石の履歴・
私が持っているエスケルは、その素性がよくわかっています。
この隕石は、1951年、地主が貯蔵用タンクの穴を
掘っているときに見つけたものです。
私が持っている隕石は、切り刻まれていますが、
もともとは、ひとつの塊でした。
その塊は、まわりには黒くこげて、
融けたものがくっついました
(フージョンックラストとよばれます)。
ですから、地球に落ちてきて
そんなに時間がたっていないと考えられています。
隕石は、個人の持ち物であれば、商品として売られます。
そして、ときには切り刻まれて、
あるときは、科学者の研究材料に、
あるときは、装飾に、
あるときは、財産として、
あるときは、ご神体として、
あるときは、コレクションとして、
あるときは、私のように眺めて楽しむために
標本商から買われるのです。

2002年11月21日木曜日

3_29 日本列島の火山帯の形成モデル

 日本列島は、温泉がたくさんあり、多くの日本人は、温泉を楽しみ、そして火山などの景観を楽しんでいます。そんな日本列島の火山にについて、新しい考え方が出されました。紹介しましょう。


 日本列島は、火山列島でもあります。日本の火山は、プレートテクトニクスの考えでは、沈み込み帯によって形成されたものです。プレートの沈み込みによってできた火山列島のことを、島弧(とうこ)と呼んでいます。日本列島だけでなく、周辺のアリューシャン列島、琉球列島、伊豆-小笠原列島のいずれも、島弧です。
 日本列島の東北日本は、世界でももっとも典型的な島弧の火山活動地域です。ですから、島弧の火山活動の解明は、日本の地質学者の重要な研究課題の一つです。その研究課題に、重要な前進が、先日(2002年9月5日発表)、報告されました。
 海洋技術センター(理事長 平野拓也)、固体地球統合フロンティア研究システム(IFREE、久城育夫システム長)、地球内部物質循環研究領域の田村芳彦グループリーダーらは、島弧の火山活動において、新しい、より詳細なモデルを公表しました。
 島弧では、火山の分布が、火山フロントと呼ばれる火山列をなしています。これは、海溝から、つまり沈み込み帯の位置から、ある一定の距離が離れたところで、マグマが形成される条件(温度圧力、沈み込むプレートからの水の供給など)が満たされていることを意味しています。しかし、その詳細は、まだ研究中で、充分解明されていません。
 「冷たい海洋プレートが沈み込むことによって、なぜ、熱いマグマが形成されマグマができるのか」という素朴な疑問に対する答えが、まだ、ないのです。
 今回、発表された研究成果では、いくつかの詳しい観測結果、つまりデータと、ある考え方が示されました。
 まず最初のデータは、火山の分布についてです。火山フロントから陸側(海溝と反対側)には、多数の活火山が分布しています。しかし、その火山の分布を詳細に見ると、火山の集中するところと、火山がほとんどない空白地域があることがわかってきた。今までは、漠然と、フロントより陸側に火山がたくさんあるという見方しかされていませんでした。ところが、今回、火山の分布は、火山の多いところと、空白域が、規則正しく交互に出てくることが示されたのです。
 第2点目は、第1点目と関係があるのですが、火山の集中域では、地形的高まりの上に、火山が積み重なっており、火山空白域では、地形的にも低いことろであることが明らかになりました。つまり、高いところに火山は活動し、低いところには、火山がないのです。火山は山ですから、高いものと考えていたのですが、もともと地形の高いところに火山ができていたのです。
 火山フロントに位置する火山列(那須火山帯と呼ばれる火山の連続)を、本州中央部の浅間火山から、北海道南部まで、標高分布をみると、10回の地形的うねり(高まりと低い部分の繰り返し)が見られます。同じような地形的うねりが、本州中央部の妙高火山から北海道南部までの、火山フロントからより陸側の火山列(鳥海火山帯と呼ばれる火山の連続)における標高分布で、見られることがわかってきました。
 さらに、その部分を、地震波トモグラフィーでみると、地下深部の高温域が、火山集中域の分布に対応していることがわかってきました。
 東北日本の島弧では、深さ50~150 kmにあるマントル内の高温領域は、日本海側の深部から、太平洋側の浅所に向かって、指状(クシの歯状)に侵入していることを示されました。熱いマントルが指状(クシの歯状)に進入しているところが、火山の多い、地形の高まりのあるところで、指の隙間にあたるところが、空白域に対応しているのです。
 指状(クシの歯状)の熱いマントルの上昇が、沈み込み帯における火山および火山帯の形成の原因となっていることを見いだされました。しかし、この熱い指状(クシの歯状)のマントルが、どこから、なぜ上昇するかは、これから取り組まれるべき課題となっています。

関連サイト
http://w3.jamstec.go.jp/jamstec-j/PR/0209/0905/index.html

・メールマガジンの目的・
中学校のある先生から、
以前、掲載した
「2_17、2_16 6億年前の大絶滅」
を学校の授業で利用したいという申し出がありました。
もちろん、了承しました。
このメールマガジンやホームページで、
少しでも地球に興味を持つ人が
増えてくれればいいと思っています。
それが、このメールマガジンの目的でもあります。

2002年11月14日木曜日

3_28 温泉

 先日、家族で海辺の温泉に出かけました。そこの温泉は、海が見える露天風呂がありました。露天風呂につかりながら、温泉について、2つの盲点があったことに気付きました。


 目の前に海の見える露天風呂です。風は冷たいのですが、露天風呂は気持ちいいです。この温泉は、食塩泉で、しょっぱいお湯です。このお湯のしょっぱさは、海のすぐそばだからだとおもっていたら、説明を読むと、「化石海水」というものであると書いてありました。
 化石海水とは、地層堆積時から含まれていた水のことです。地層は、陸から河川で運ばれた土砂が、海でたまったものです。ですから、堆積物の間にある水は、実は海水なのです。
 深い地層の地下水は、塩分を含むものが多くあり、これを化石海水と呼んでいます。つまり、海に近いからしょっぱい温泉なのではなく、海でできた地層から出てきた水だからしょっぱいのです。盲点でした。
 海辺の温泉とはいえ、火山などの熱源があれば、海水を温めることができますが、ここには、近くに火山はありません。ということは、ここの温泉は、深くまで掘って、地温勾配(深くなるほど地温が高くなる)を利用して、温泉としたものです。ということは、深層の地下水だということです。深層の地下水には、地層からしぼり出された水が含まれています。それが海水なのです。
 もともと地層は、海底に土砂がたまったものです。これが一枚の地層としての始まりです。海底に土砂がたまるという現象が何度も繰り返され、何枚もの地層が重なっていきます。やがて、下の地層が圧縮されて、含まれていた水がしぼり出されます。そのとき出てくる水は、海水です。これが、深いところからくると、地温勾配で温められたもの、つまり温泉としてでてきます。
 この地域の基盤の地層は、新第三紀末ものですから、海水は1000万から500万年前のころの海水だということになります。
 多分、この温泉が、山の中にあれば、上のように考える人も多いとおもいますが、海の近くという落とし穴に、私は、はまっていたのです。
 もう一つは、温泉の温度についてです。ここの温泉は、36.5℃だそうです。体温ほどですから風呂の湯として使うには温度が低すぎます。だから沸かしているはずです。温泉を沸かすと邪道だ、うめるぐらい熱い温泉がいいという人がいるかもしれません。でも、ここには、定義と成分濃度の点から盲点があります。
 日本では、温泉の定義は、1948年に制定された温泉法という法律で定められています。その定義によれば、25℃以上の温度を持っているものを温泉としています。だから、私が入ったような沸かさなくてならようなぬるいものでも、温泉といって大丈夫なのです。また、25℃未満でも、ある特定の成分を、法律上の値以上に含んでいれば、温泉といえるのです。
 その成分とは、法律上、19の成分あげられています。全溶存成分量、遊離炭酸、Li+、Sr2+、Ba2+、総鉄イオン、Mn2+、H+、Br-、I-、F-、ヒドロヒ酸イオン、メタ亜ヒ酸、総イオウ、HBO2、H2SiO2、NaHCO3、Rn、ラジウム塩であります。このような成分が、法律で決められた成分以上に、どれか一つでも含まれていたら、温泉といえるわけです。冷たいものでも、温泉ということができます。温泉の効能が、溶存成分によってもたらされているのであれば、こんような成分のを重視することも理解できます。
 成分の濃度をよく考えると、熱くてうめて入るくらいの温泉は、溶存成分は、うめた分だけ薄まることになります。ということは、うめた温泉は、溶けている成分の濃度が、薄まったことになります。
 温泉の効能が、溶存成分にあるのなら、薄めることによって、温泉の効能の効果が弱まることがなります。ところが、沸かす温泉は、水の蒸発によって、かえって成分の濃集は起こっているのです。つまり、沸かした温泉は、効能のおよぼす成分が濃くなることがあっても、薄まることはないのです。これも盲点でした。

・吹雪の露天風呂・
露天風呂は、吹雪でした。
波も荒く、風も強い。
しかし、がんばって、長男と風呂に入りました。
もちろん、裸で吹雪の中を歩きますから、
大急ぎで、露天風呂に飛び込みました。
温泉の首までつかって、吹雪の露天風呂を楽しみました。
長男は、丸坊主なので、頭が寒そうでしたが、
変わった露天風呂を堪能しました。
もちろん、出るときも駆け足で
内風呂に飛び込んだのはいうまでもありません。

・意外な温泉・
温泉とは、温度からすれば、
地下から湧き出した
温かい地下水というように考えます。
これがいちばん常識的な温泉です。
溶存成分が、1g/kg未満で温度が25℃以上のもの、
つまり、私たちが一般に温泉と考えるものは、
単純温泉といって分類しています。
また、成分を考えると、
溶存成分がたくさん含んでいるものは、鉱泉といい、
そのうちの温かいものを温泉といます。
温かく溶存成分の多いものが、温泉の常識的な考えです。

ところが、温泉法によれば、
冷たい鉱泉が、温泉と呼べるだけでなく、
ガスや水蒸気でも、上で述べたような成分が含まれていたら、
温泉として扱います。
ちょっと常識に反します。

でも、効能から考えると、
温度は、沸かすことでいくらでも変えることができますが、
溶存成分は変えることはできません。
添加しては、天然温泉ではなりません。
入浴剤いりの銭湯と変わらなくなります。
単に温度が高いだけでは、
効能からすると、ありがたみが、あまりないのです。

2002年11月7日木曜日

6_17 11月の誕生石

 誕生石が、ひとつの月と、ふたつの月、3つの月があります。なぜかは、わかりませんが、誕生石の数が違うのです。今月は、ひとつの月です。11月の誕生石は、トパーズです。

 トパーズは、英語でtopazと書きます。日本名は、黄玉(おうぎょく)といいます。日本名の黄玉という名のとおり、黄色のトパーズが、宝石として価値があります。シェリー酒に似た、黄みがかった、豊かなオレンジ色が、宝石とされています。中でも、インペリアル・トパーズと呼ばれる、やや赤みを帯びた暖かい黄金色をしているものがいいとされます。しかし、トパーズでよくみられるのは、無色透明の結晶が多いのです。
 柱状(斜方晶系)の結晶としてよくみられます。モース硬度は8で、8の指標の鉱物として使われています。
 トパーズは、片麻岩という変成岩や花崗岩の中や、花崗岩や流紋岩の小さな穴からみつかります。
 トパーズの化学組成は、Al2SiO4(F,OH)2です。カッコ()の意味は、フッ素(F)か、水酸基(OH)のどちらかが、あるいは両方がはいるという意味です。水酸基のタイプのトパーズは、色が美しく、色も永久性があり、インペリアル・トパーズもこのタイプです。無色や青色、黄色、褐色のトパーズは、フッ素タイプですが、色の耐久がよくありません。
 水酸基タイプの黄金色のトパーズは、熱処理によりピンク色に変わります。無色のトパーズに放射線による着色もおこなわれています。フッ素タイプのトパ-ズは、着色しても色の耐久性は、よくありません。
 トパーズで品質のいいインペリアル・トパーズと呼ばれるものは、ブラジルのミナス・ジェライス州オウロ・プレト地区が世界唯一の産地となっています。そこ以外にも、スリランカやインド、ロシアのウラル山脈などからも品質のいいものが産します。世界最大のトパーズは、ブラジル産で、80cm×60cm×60cm、300kgもあり、ニューヨークの自然科学博物館にありからみつかります。日本最大の標本は、7.5cm×10cm×15cm(苗木)で、20世紀のはじめにとれたもので、現在では、こんなに大きいなものはとれません。

・名前の由来・
トパーズという名前は、
紅海の中央部にあったトパゾス島に由来するといわれています。
この話は、プリニウスの「博物誌」からきているようです。
紅海の真ん中にトパゾス島という島
(現在のセント・ジョン島らしい)
があり、昔から探索されてきました。
しかし、霧が深く、なかなか発見されませんでした。
ですから、この島の名前を、
「探索する」という意味の「トパージン」と呼ばれていました。
「トパージン」というのは、
昔のエチオピア人の言葉で「探索する」ことです。
紀元前3世紀に、この島から初めて1個のトパーズ
(これは現在ではペリドットと呼ばれている別の宝石)
が、エジプト王家に贈られました。
王家は、この「トパーズ」で、2mもある像をつくり、
神殿に奉納した、という記述があります。

紆余曲折のすえ、トパーズという名前がついたようです。
ある島を探していましたが、
なかなか見つからないので、
その島の名前が「探す」という名前になり、
その後、島からでた宝石の名前になりました。
でもその宝石は別のものだったのですが、
現在のトパーズという宝石の名前になりました。

・さまざまなトパーズ・
かつて、トパーズには、
ペリドット(カンラン石のフォルステライトと呼ばれる種類)や
クリソチル(蛇紋岩の一種)など
別の鉱物が、間違ってトパーズとされていたこともありました。
現在では、オリエンタル・トパーズ(黄色のサファイア)や、
黄色の石英や黄色のコランダムが
トパーズとよばれることもあります。
これは黄色という色がトパーズの特徴なので、
それに似ているという意味から
「トパーズ」という名称が使われているのです。
また、透明のブリリアンカットしたトパーズが
ダイヤモンドの間違われることがあります。
これは、誤解もしくは詐欺のためです。