2002年7月25日木曜日

2_22 6500万年前の大絶滅(その2)

 白亜紀末のK-T境界と呼ばれる時代の大絶滅は、隕石衝突が原因であったと考えられています。その説に落ち着くまでに紆余曲折がありました。それを紹介しましょう。
 K-T境界の大絶滅の原因で、いちばん確かだとされているのは、隕石衝突説です。その説の概要を見ていきましょう。
 直径約10kmの彗星か小天体が落下し、衝突によって、大津波が発生し、またちりやこり、ガスなどが、成層圏までたくさん舞い上がり、太陽光をさえぎって、地球を寒冷化させました。そして植物が大打撃をうけました。食物連鎖の基礎となる植物が大打撃を受けると、それを食べる草食動物も打撃を受けます。変温動物であった恐竜たちは、寒さと飢えで絶滅していったたと考えられています。
 ことの起こりは、1977年、アルバレスが、イタリアのグッピオと呼ばれる地域で、K-T境界の地層を見つけたことでした。この地層は、白亜紀には化石がたくさんあるのに、境界から上の第三紀の地層には化石がほとんどないなものでした。そして、K-T境界の地層は、1cmほどの粘土層で、黒っぽく、ススがたくさん含まれているものでした。アルバレスは、そのK-T境界の岩石の化学分析しました。するとそこには、地表にはほとんどない元素がみつかりました。
 その元素は、イリジウム(Ir)とよばれる白金(プラチナ、Pt)の仲間の元素です。イリジウムは、K-T境界のところに、濃集していました。その量は、まわりの地層の数倍というものでした。
 イリジウムは、地殻つくる岩石にはほとんど含まれません。ですから、K-T境界では、イリジウムをたくさん当時の地表に濃集させる事件があったはずです。その事件を、アルバレスたちは、隕石の衝突と考えたのです。なぜイリジウムかというと、隕石には、地殻の含有量にくらべて、10万倍もおおくイリジウムが含まれています。白金の仲間の元素は、地殻にはほとんど含まれず、なかでもイリジウムがその差がいちばん大きくなっています。
 隕石には、イリジウムを比較的多く含みます。ですから、供給源として合格です。しかし、それをK-T境界の大絶滅の原因とするには、いくつかの条件が必要でした。
 まず、K-T境界の時代の隕石によるクレータが見けること。隕石の衝突によるほかの証拠、傍証をだすこと。隕石の衝突によって大絶滅があったとすると、その絶滅までは生物の絶滅の兆しはなく、その日が来れば、絶滅が突然におこったという証拠をだすこと。以上の条件を満たす必要がありました。
 現在、メキシコのユカタン半島に、隕石の衝突のクレータがみつかっています。そして、そのクレータは、人工衛星による探査でみつかり、現地では各種の物理探査によって確認されました。その衝撃でできたクレータは、直径180kmもあることが、わかってきました。でも、データはすでに存在していたのでした。現地の人が利用していた泉が、クレータの形にそって、点々とあったのです。また、石油探査でも、今ではだいぶ埋まっていますが、大きなくぼみ(クレータ)の存在は知られていました。
 衝突の証拠として、衝撃でできた石英の鉱物も特殊な組織、衝突のときに溶けた岩石のガラス、巨大津波でできた地層、衝突で起こった大火災によるスス(煤)などがみつかりました。それに、世界各地のK-T境界からも、イリジウムの濃集が確認されました。
 衝突の事件も、いままでK-Tの大絶滅は、その時代より前から絶滅が始まっていたとされたいた地層を調べなおしたところ、K-T境界までその生物は生存していたことが確認されました。そして、絶滅は非常に短い期間で起こったことが確認されていきました。

2002年7月18日木曜日

2_21 6500万年前の大絶滅(その1)

 さて、いよいよ、私たちがいちばんよく知っている恐竜の絶滅についてです。この絶滅は、多くの研究者が、その原因をいろいろな視点で研究してきました。でも、その原因はなかなかわからず、不明のままでした。でも、あるとき、とんでもない新説が現れました。そして、それが今や定説となっています。
 6500万年前は、中生代と新生代の時代境界です。K-T境界と呼ばれています。K-Tの意味は、時代の略称です。中生代の最後の時代は白亜紀で、ドイツ語でKreide(英語ではCretaceousです)でKと、新生代の最初の時代は第三紀でTertiaryのTと略されています。それで、中生代と新生代の境界を、K-T境界と呼んでいるのです。
 中生代は、三畳紀(2億4500万年~2億0500万年前)、ジュラ紀(2億0500万年~1億3800万年前)、白亜紀(1億3800万年~6500万年前)に区分される、1億8000万年間も続いた時代です。また、中生代は、古生代末にあった超大陸パンゲアが分裂する時代であったともいえます。大陸の分裂、つまりプレートテクトニクスによって、南半球では、南極とオーストラリアが分裂し、北半球では海洋底が拡大し、北大西洋を広げ、北アメリカとグリーンランドが分裂しました。
 中生代は、温暖な時代で、恐竜の仲間たちが栄えるには、いい時代でした。中生代は、恐竜が栄えた時代として有名ですが、そのほかにも、裸子植物が繁栄し、海ではアンモナイトが栄えました。ジュラ紀には、哺乳類や被子植物も出現しましたが、哺乳類は白亜紀になっても、10cmに満たないような小さな生き物にすぎませんでした。それは、恐竜が栄えていたからです。
 そんな恐竜たちが、ある日、忽然と、みんな消えてしまったのです。K-T境界で絶滅したのは、恐竜だけでは、ありませんでした。陸上の動物や海生の動物もたくさん絶滅しました。さらに、植物も多数絶滅しました。セコウスキーとラウプの見積もりによりますと、当時の全生物種の60から75パーセントが絶滅したと推定しいます。原生動物や藻類にいたっては、属という分類で、90パーセント絶滅したといわれています。
 P-T境界、つまり古生代と中生代の大絶滅と比べると、少しましというべきですが、それにしても、大変な大絶滅です。地球生命が遭遇した、史上2番目の大絶滅になります。
 P-T境界と同様に、K-T境界の大絶滅の原因は、長らく定説がありませんでした。恐竜の絶滅の原因に関しては、多くの研究者が、多くの仮説を提出してきました。たとえば、海水準の変化、気候帯の移動、火山噴火、超新星爆発、地球磁場の逆転、太陽活動の激変、などなど、いろいろな説が唱えられました。しかし、これぞ、という説はなかなかありませんでした。
 K-T境界の大絶滅の原因として、いまでももっとも有力な、隕石衝突説が、ある化学分析から生まれました。それを説明すると長くなりそうです。以下は次回にしましょう。

2002年7月11日木曜日

6_13 7月の誕生石

 7月の誕生石は、ルビーです。ルビーは、赤く、まさに深紅、真紅ともいうべき、きれいな色の宝石です。

 ルビーは、コランダムという鉱物です。コランダムは、酸化アルミニウム(Al2O3)という化学組成をもちます。酸化アルミニウムは、アルミナとも呼ばれます。コランダムは、灰色、または青みがかった灰色、茶色などの結晶で、等粒状の塊として出ることが多いです。
 ルビーは、モース硬度が9、比重が4.0~4.1、六方晶系の結晶です。ルビーの多くは、六角形短柱状の結晶として変成岩中でみつかります。ルビーは、比重が大きいので、風化して、砂礫として川を流れると、沈みやすくなり、堆積物として、川底に集まりやすくなります。そんな砂礫の堆積物から、効率的に、ルビーが採掘されます。
 9月の誕生石、サファイアもコランダムという鉱物です。赤いものだけをルビーといって、それ以外の色のものをサファイアといいます。赤くても、透明なものや淡い赤のものは、ピンクサファイアとして、ルビーとはルビーは、赤い宝石という意味の紅玉という和名をもちます。ルビー(ruby)という言葉も、中世ラテン語のrubinus(赤い)からきています。日本語も、英語も、ルビーの赤にちなんで、名づけられています。
 ルビーの赤色は、少し含まれるクロム(Cr)という元素のためです。ルビーでは、深みのある赤がよいものとされています。ミャンマーでとれたルビーは、ほかの産地のものよりも、クロムの含有が多く、しかもそれ以外の不純物が少ないために、美しい濃赤色を示す。最高級のルビーは、ミャンマーのモゴーク地域からとれるもので、ピジョン・ブラッド(ハトの血)とよばれるものです。区別しています。
 コランダムの中に、ルチルとよばれる鉱物の非常に小さい針状の結晶が、多数ふまれていることがあります。そのとき、ルビーを表面にまるみをつけてカット(カボション・カット)すると、星状に光り輝くことがあります。これをスター効果といいます。そのようなルビーは、スタールビーとよばれ、珍重され、高価になります。
 ミャンマー、タイ、カンボジア、スリランカ、タンザニアなどが、ルビーのおもな産地となっています。
 11世紀のフランス「宝石の書」には、ドラゴンの額のまんなかには赤味を帯びた一個の目があって、「カルブンクルス(carbunculus)」と呼ばれています。カルブンクルスは、どんな宝石よりも赤い燃えるような光を放っていて、いかなる闇をもってしても、この光を消すことはできない、とされいます。このカルブンクルスは、まさに、ルビーを代表とする赤い色の宝石を意味していました。しかし、14世紀には、カルブンクルスは、しだいにその意味を変えて、架空の宝石となり、やがては「賢者の石」と同じと考えられ、錬金術の象徴となりました。
 ルビーは、宝石としても利用されますが、時計や精密機器の軸受などにつかわれたり、レーザーの素子としても活用されています。ルビーは、物理的・化学的性質が安定していることから、1960年に、はじめて、固体レーザー、ルビーレーザーとして使われました。
 合成ルビーは、1904年にその製造法は発明されました。当初の火炎溶融法によってつくれていましたが、最近では、フラック法や熱水法による新しい方法によってつくられるようになり、天然ルビーに近いものができるようになりました。そのため、天然石と合成石との区別が、困難になってきました。

2002年7月4日木曜日

2_20 2億4500万年前の大絶滅(その4)

 さて、P-T境界(2億4500万年前)の古生代と中生代の時代境界の大絶滅の話も、第4回となり、最終回です。P-T境界の事件とは、いったいどのようにして起こったのでしょうか。やはり、東京大学の磯崎行雄さんたちのグループの研究成果を参考にして、見ていきます。
 P-T境界の古生代と中生代の境界時代(2億4500万年前)おこった事件は、当時、一つしかなかった超海洋パンサラサに、その記録が残っていました。陸から遠く離れた深海底でできたチャート、そして、その海洋のやはり陸から遠く離れた浅海の海山にできた石灰岩にも、その絶滅の記録は残っていました。
 深海底では超酸素欠乏事件として、浅海では火山灰として記録が残されていました。その火山は、どうも中国大陸の付近かそれより西でおこった酸性のマグマによる大規模な火山噴火でした。
 P-T境界の時代には、超海洋パンサラサとパンゲアと呼ばれる一つ超大陸だけがありました。現在の大陸と海洋の配置から考えると、非常にへんな分布をしていたことになります。どうも、超大陸ができると、なにか大変な事件が起こるようです。
 大量絶滅は、一つの原因で起こる場合と、いくつもの複合した原因でおこる場合があります。一つの原因は、巨大隕石の衝突や、巨大火山の噴火などの大事件によって起こる場合です。いくつもの複合した原因でおこる場合は、超大陸などの形成によって、複雑な因果関係によってさまざまな事件が短期に起こったために大絶滅になったということです。ただし、この複雑な原因を考えるとき、本当に原因となったのは、何かをはっきりさせることが重要です。
 たとえば、地球の内部に大規模な異変があった場合、地表では各種の事件がおこったはずです。そのうちのどれが、絶滅の原因となったかを、はっきりする必要があります。
 大規模絶滅は、当然、大規模な事件によるもののはずです。そのような事件は、多くの別の事件を引き起こしたはずです。推理小説に例えるなら「殺人事件はあった。犯人は誰だ」ということです。
 動機を持る者が一杯いたとしても、その殺人が起こしやすくした関係者が何人もいたとしても、直接手を下した犯人は、何人かに絞れるはずです。それを見極めることが重要です。また、殺人事件によって生じた変化が引き金として、直後に別の事件が起こっているかもしれません。それに惑わされず、因果関係をはっきり見極めることが重要です。
 超大陸の形成も、遠因では、あるでしょう。でも、超大陸があると、なにが起こるのか、大規模な火山活動や深海底の超酸素欠乏事件をどう説明するのでしょうか。
 じつは、まだこれという原因が定まっていないのです。磯崎さんのモデルもまだ、完成していません。でも、仮説は出されています。「プルームの冬」という仮説です。それは、次のようなものです。
 超大陸パンゲアができると、大陸のまわりに沈み込み帯が、多数できます。そして、やがて、沈み込んだプレートの反作用として、地球深部から「スーパーホットプルーム」と呼ばれる熱いマントル物質が、上がってきます。このプルームが、激しい火山活動を起こします。
 激しい火山活動のときに噴出した火山灰が、光合成をストップさせたのではないかと、磯崎さんは、考えています。成層圏にまで吹き上げられた火山灰によって、まるで「核の冬」のように、地表に光が届かなくなり、光合成をする生物が、極端に少なくなります。当時の酸素を活用する生物が、主要なものだったのです。酸素を供給する生物が大量絶滅すると、大気や海洋の酸素が少なくなり、生物全体は、大打撃つまり大絶滅がおこります。
 以上が、磯崎さんが考えているシナリオです。まだ、証拠が不十分です。現在、いろいろ智恵を絞って、犯人探しの真っ最中です。