2002年1月31日木曜日

3_21 層状チャート

 ありふれている堆積岩だけれども、その由来が少し変わったものとして、チャートを取り上げましょう。チャートとはいったどんな堆積岩でしょうか。


 チャートという岩石は、あまり聞きなれない言葉かもしれません。しかし、岩石としては、それほど珍しいものではありません。チャートは、多くの場合、薄い地層として産出します。チャートの地層は、薄いのですが、繰り返して出ることが多くあります。層が繰り返しているチャートは、層状チャートと呼ばれています。層となるためには、チャートとチャートとの間に、別種物質が挟まっているわけです。別種物質とは、厚さはまちまちの「普通の堆積物」です。「普通の堆積物」の多くは、粒の細かい堆積物で、粘土や泥が多く、時には火山灰のことがあります。
 層状チャートは、どのようなでき方をしたのでしょうか。
 チャートを詳しく見ると、まれにですが、1mm程度の丸い形のものが見えることがあります。放散虫(ほうさんちゅう)などの小さな生物の化石です。放散虫は、古い時代(カンブリア紀)から現在(地質学では現世(げんせい)といいます)まで生きている海の微生物です。チャートは、海面付近に住んでいる放散虫などの微生物が死んで、その死骸が沈んで、海底に溜まったものです。
 深海底では、このような微生物が今も溜まっているのです。潜水艇が深く潜った時の映像をご覧になった方も多いと思いますが、そのとき潜水艇のライトに照らされて、雪のように降っているものが、微生物の死骸なのです。まるで雪のようなので、マリンスノーと呼ばれています。
 微生物が、いくら降ってきても、例えば1年間で積もる量は、それほどたいしたことはありません。まして、岩石のように固く詰まったものになると、その厚さは微々たるものです。しかし、地球は、生物には考えれないほど、長い時間をかけてものごとを成します。長い年月をかければ、1年1年の厚さが微々たるものでも、それなりの厚さになります。まさに、「チリも積もれば、地層になる」です。
 チャートが薄い層で産出するといった理由が、これで納得いただけるでしょうか。でも、チャートとチャートの間に挟まれた薄い粘土や火山灰の層は、チャートができるような深海底に、どこから、どうしてもたらされたのでしょうか。
 まず、「普通の堆積岩」は、陸から川の流れによって海に運ばれます。それが、礫岩や砂岩などのでき方です。もちろん、泥岩もその一部として形成されます。しかし、遠洋のチャートが溜まるような場所までくる「普通の堆積物」は、普通にはありません。めったにないことなのです。想像を絶する大洪水などの天変地異と呼んでもいいような土石流によって、ものが海に流れ込んだ時、いつもは行かないところまで「普通の堆積物」が運ばれることがあります。火山灰でも同じような事情で、何百年、何千年に一度の大噴火が起こったとき、普段はいかな所まで、火山灰がもたらされることがあります。これもやはり天変地異というべきものです。
 このような度重なる天変地異が、層状チャートをつくったのです。
 層状チャートの存在は、人類の常識の限界を教えてくれます。何百年、数千年に一度の天変地異は、人類にとっては天変地異ですが、地球の時間スケール(地質学的タイムスケール)でみると、繰り返し起こっているサイクルの中の一つであることがわかります。層状チャートが、古くから新しいものまであることから、「天変地異」は、地球では「普通の堆積物」をつくる営みの一つに過ぎないのです。