2001年11月29日木曜日

3_14 生命

 地球には、生命がいます。人類も、その生命の一種です。地球は、現在知られている唯一の生命のいる星です。生命の量は、地球全体から見れば、取るに足らないものです。でも、一つ一つばらばらの個体ですが、生命全体としてみますと、生命圏と呼べるほどの、重要な構成要素となっています。その重要性を見ていきましょう。


 生命は、たった一つの細胞で生きている小さいものから、鯨のように多数の細胞からなる巨大な生物に至るまで、すべて共通性をもっています。それは多様性に富むことです。生命の多様性は、他の層(大気、海洋、地殻など)のものより、はるかに勝っています。その多様性を生む仕組みを、進化といいます。多様性と進化は、生命を特徴付けるものです。まあた生命の多様性と進化は、他の層へも大きな影響を与えます。生命は、大地や、大気、海洋との相互作用をし、お互いに変化してきています。だから、生命は、地球の構成要素として重要な役割をになうのです。
 生命のほとんどは、地表付近と海洋表面付近にいます。例外的に、高山や深海にもいますが、その量は少しです。例外的な場所を含めたとしても、生命は他の層に比べて、量や分布としては、少しです。また、生命は、他の層、つまり、大気、海洋、地殻などなくしては、存在し得ません。大気は、呼吸をするために、海洋は生きる場所、地殻は栄養補給、などとして、他の層がなくてはならないものなのです。つまり、生命とは、他の層への依存のもとに存在し得るのです。
 生命は、一方的依存だけでなく、相互作用をしています。それが、他の層に大きな変化を与えました。一番の変化は、生命という新たな物質循環を生み出したことです。その一番の事例が、地球の表面を酸化的環境に変えたことです。酸化的環境とは、原子や分子が酸化されやすい状態です。原始の地球は、金星や火星と同じような環境で、今ほど酸化的環境ではなく、太陽系の惑星としては、普通の環境でした。でも、今の地球は、非常に酸化的環境です。それは、大気や海洋に酸素分子(遊離酸素といいます)をたくさん含んでいるからです。酸素は、他の原子や分子を酸化させる機能をもっています。このような酸素が大気や海洋にあるという状態は、他の惑星には見られない特徴です。
 生命が誕生するまで、大気には多くの二酸化炭素が、海洋には炭酸イオンが含まれていました。初期の生命も、そのころの環境に適応した生活をしていました。つまり、原始の海洋の酸化還元環境に適応していたのです。しかし、生命を特徴付ける多様性と進化が、別の道を選びました。
 約20億年前に大量の発生したシアノバクテリアは、光合成を利用してより効率的は養分を得る仕組みを利用していました。そのころのシアノバクテリアは、ストロマトライトといいう岩石として大量に見つかります。シアノバクテリアの生活の廃棄物として、酸素が、大量に海洋に投棄されました。それまでの環境に適応していた生物には、とんでもない環境破壊が起こったのです。酸素は、それを解毒できない生物にとっては、猛毒でした。酸素は強力な酸化能力を持っています。生物の体を酸化して、有機物を分解してしまいます。そのため、当時きていた大部分の生物種は、絶滅したはずです。想像を絶する大絶滅が、20億年前には起きたに違いありません。
 そのころの酸化的環境への変化の産物として、約20億年前に形成された大量の縞状鉄鉱層が、世界各地の大陸から見つかっています。その量は、数100mの厚さの地層として、何10km、数100kmにわたって分布しています。縞状鉄鉱層は、海に溶けていた鉄のイオンが、酸素の供給によって、サビとして沈殿したものです。それを、私たち人類は、文明にはなくてはならない鉄資源として利用しています。
 酸化的環境への激しい環境変化を生き延びたのは、ほんの一握りの生物だったに違いありません。昔のままの環境を残す深海や、地殻深くなどのかろうじて絶滅を免れた生物がいたにすぎません。光合成をする生物と酸素を解毒できる生き物だけが生き延びました。その種類数は少なかったはずです。でも、持ち前の進化によって再び多様性に富む生物圏を作り上げました。やがて、酸素を解毒するだけでなく、エネルギーとして有効に利用する生物がでてきました。それが、私たちの祖先となるわけです。
 生命には、大量の炭素が使われています。その炭素は、かつて大気や海洋、地殻にあったものが、生命の材料として利用されました。そして、死んだ生物の炭素は、再び他の層にもどり、あるものは他の生物のものとなります。地球全体の生命の量(バイオマス)が、変化しない限り、ある一定量の炭素は、生命という層の中にあります。他の生命を構成している元素や物質についても同様のことがいえます。
 地球誕生のころ、地球には生命がいませんでした。あるとき生命ができ、そして長い時間と進化によって、現在のような大量の生命が形成されました。物質循環という視点からすると、生命は、酸素や炭素など元素の層移動の重要な原動力なっています。それは、生命だけでなく他の層をも巡る循環なのです。