2001年11月22日木曜日

3_13 海洋

 地球は、よく「水惑星」と呼ばれます。その理由は、地球の表面には、海が広く分布するからです。その広がりが、地球を青く見せているのです。「青い地球」の青の海では、どのようなドラマが繰り広げられたのでしょうか。


 海。それは、大部分が水からできています。水とは、H2Oです。でも、H2Oの液体が存在するには、非常に限られた条件を満たさなければなりません。それを、地球が満たしていたのです。そして、液体のH2O、水が存在したから、私たち生命が地球に存在できるのです。水と生命には切っても切れない関係があります。
 原始の地球の材料に、H2Oが含まれていました。そのおかげで、地球には、初まりからたくさんのH2Oがありました。H2Oというのは、太陽系だけに固有のものではなく、宇宙では比較的たくさんある成分なのです。ですから、太陽系の惑星には、もともとH2Oが含まれていたり、今もたくさん含まれています。材料を見ると、地球は選ばれた星ではなっく、ごくありふれた星なのです。
 H2Oがたくさんあっても、H2Oは温度によって、冷たければ(地表では0℃以下)固体の氷になり、熱ければ(地表では100℃以上)気体の水蒸気になります。太陽系の惑星の表面温度を決定する一番大きな要因は、太陽からのエネルギー量です。太陽に近いと熱く、遠いと冷たくなります。その中間的な位置では、H2Oが液体の水となるのです。
 地球は、水が存在できるような太陽から位置にあったのです。でも、地球だけでなく、火星も、液体のH2Oが存在できる条件を備えていました。ですから、かつては、火星の表面には、地球のように、海があったと考えられています。火星が小さかっため、引力が弱く、大気がだんだん宇宙空間へ抜けていって、薄い大気の冷たい星になったと考えられています。さらに遠い惑星では、H2Oは氷になっています。逆に、地球より太陽に近い、金星や水星は、熱さのため、液体の水は存在しません。
 隕石の衝突で熱かった原始の地球は、隕石の衝突が収まってくると、冷めてきます。すると、大量にあった水蒸気は、雨となって降ってきます。それが、やがて海になります。
 海は、水が主成分ですが、その他の成分も混じっています。それは、水が、他の成分を非常に溶かしやすいという性質を持っているからです。海水には、ナトリウムイオン(Na)と塩素イオン(Cl)が大量に溶けています。NaとClは、しょっぱさのもとである塩(しお)(NaCl)となります。次いで多いのが、マグネシウムイオン(Mg)です。マグネシウムはニガリのもとです。さらに、イオウイオン(S)、カルシウムイオン(Ca)、カリウムイオン(K)が、溶けている(溶存)成分として続きます。
 海の水の歴史は、まだ解き明かされていません。海水の量は、昔から現在ほどの量があったのでしょうか。また、海水において、上で述べたような成分は、いつごろからあったのでしょうか。成分やその濃度に、変化はなかったのでしょうか。このような素朴な疑問に対する仮説はあるのですが、まだ定説まで至っていません。
 でも確かなことがあります。それは、生命が、35億年前には、海の中で生まれていたということです。そして、生命の中には、体液として海の記憶があります。生理食塩水の塩分濃度は、3.5%です。これは、海水の塩分濃度と同じです。だから、もしかすると塩分濃度は、今も昔も変わらないのかもしれません。すると、生命は、非常に薄い溶液の中で生まれたことになります。
 実は、そこが問題なのです。現在のような海水があるだけの条件では、生命は誕生できません。生命誕生には、生命にいたるための分子をつくるのに、エネルギーも必要だし、成分も濃集されている必要があります。エネルギーの供給の多いところは、環境としては、苛酷で、変化が激しいところです。そんな環境が、今もあるのでしょうか。
 少しですが、現在もあります。それは、熱水の噴出口です。中央海嶺と呼ばれるマグマの活動の激しいところでは、多様な成分が溶けこんだ熱水が噴出を続けています。そのような環境は、過酷ですが、特殊な成分の濃集や、激しい化学変化やおこっています。ですから、多くの科学者は、生命の誕生の場が、深海の熱水噴出口ではないかと考えています。
 その有力な証拠として、35億年前の化石が見つかった環境が、地質学的調査から、海嶺の熱水噴出口だったとされています。また、傍証として、原始地球の表面は冷めたとしても、内部はまだ熱ければ、火山活動が激しかったと考えられます。となれば、熱水噴出口も地球の各地にあったと考えられます。そこでは、生命の合成実験が日夜繰りかえされていたのです。そして、少なくともその一つは成功して、それが、私たち生命の祖先となったのです。