2001年11月15日木曜日

3_12 大気

 大気。それは、地球の周りに、ほんの少しだけ、本当に薄くまとわりつくベールのようなものです。スペースシャトルからの映像を見ると、その儚(はかな)さがよくわかります。そんんな薄い大気ですが、われわれ地球生命にとっては、なくてならないものです。そして、大気は、長い地球の歴史の中で、変化を遂げ、今の姿になったのです。


 地球の大気は、空気と呼ばれています。空気は、8割の窒素(N2)と2割の酸素(O2)、そして少量のアルゴン(Ar)と二酸化炭素(CO2)からできています。と、よく言われますが、正確には、いくつかの前提を話すべきです。まず、この比率は、地表付近のものであること、そして大気組成は、体積や重量での比率を区別することが重要です。地球付近の窒素の体積比は78.088%、重量比は75.527%で、酸素の体積比は20.949%、重量比は23.143%で、アルゴンの体積比は0.93%、重量比は1.282%で、二酸化炭素の体積比は0.035%、重量比は0.0456%となります。窒素や酸素は、主成分であることと、分子量に大きな差がありませんので、窒素と酸素が、8割と2割で体積でも重量でも差があまりでません。ですから、あいまいな表現でもよかったのですが、例えば、分子量(正確には原子量)の大きな(83.7)クリプトン(Kr)は、体積比では0.000114%で、重量比では0.000330%となり、値としては3倍あるいは3分の1もの違いが生じます。話が脱線しました。戻しましょう。
 さて、なにげなく吸っている空気。これは、いつからあったのでしょうか。地球誕生の時からでしょうか。それとも、あるときにできたのでしょうか。
 前回も少し紹介したのですが、実は、地球形成の歴史から考えられる最初の大気は、今とは全く違ったものだと考えられています。地球の素材である隕石から出てくるガスは、水蒸気(H2O)や二酸化炭素(あるいは一酸化炭素)、窒素を主成分とするものです。水蒸気は、原始の地球が冷めてくると、液体の水となり、集まってやがて、海洋になります。ですから、冷めた地球では、二酸化炭素(あるいは一酸化炭素)と窒素が、原始の大気(空気ではありません)の主成分となっていたのです。
 今の大気と比べて、原始地球の大気は、酸素がなく、二酸化炭素が多いものだったのです。これは、隣の金星や火星の大気が、二酸化炭素と窒素を主成分とすることも、傍証となります。ということは、何らかの作用で、原始地球の大気に、酸素が加わり、二酸化炭素が抜けていったことになります。駆け足になりますが、45億年のストーリを紹介しましょう。
 酸素は、生物がつくったのです。浅い海にすんでいたシアノバクテリアが、その役割を果たしたのではないかと考えられています。シアノバクテリアは、光合成をする生物です。光合成とは、葉緑体という器官で、光のエネルギーを使って、二酸化炭素と水から、炭水化物などの有機物と酸素をつくる作用です。シアノバクテリアが長年にわたって、光合成を続ければ、やがて、大量の酸素が大気中に蓄積されます。
 大気中の二酸化炭素は、ある比率で海の中にも溶け込みます。その溶けた二酸化炭素が、光合成には利用されています。そのほかにも、化学的に炭酸カルシュウム(CaCO3)として沈殿したり、生物の殻や骨など(これも多くは炭酸カルシュウム)、あるいは有機物(最終的には炭素)として固体となれば、気体の二酸化炭素よりコンパクトに(小さい体積)になります。減った海水中の二酸化炭素は、大気から即座に補充されます。このような炭素の固化作用を長い期間続ければ、大気中の二酸化炭素を、海をへて、生物と地球自身の作用によって、取り除くことができます。
 駆け足でしたが、地球の大気の空気へいたる履歴を見ていきました。生物、海洋、大気の相互作用による酸素の合成と、二酸化炭素の固化は、現在も続いています。でも、人類による急激な、二酸化炭素の大気への添加、熱帯雨林の破壊や海洋汚染による光合成の阻害などが進めば、地球の大気環境は、変化するかもしれません。それは、大気だけにとどまらす、海洋や、やがては生物自身へと、その変化の輪は広がるかもしれません。