2001年11月1日木曜日

1_16 最初の生命(2001年11月1日)

 最初の物語は、大気から、固体、海、陸、海洋底と続き、今回は最初の生命の話です。最初の生命は、いつどこで、誕生したのでしょうか。それは、なにからわかるのでしょうか。生命のはじまりの物語です。
 過去の生物の調べるには、いくつかの方法があります。一般的な方法は、化石を探すことです。その他に、現在生きている生物の系統樹を書いて、一番初期の生物を探っていく方法や、あるいは宇宙に生命の起源を求めたり、宇宙の生物を発見することで解決を目指そうという方法、生命を作っていこうという方法などがあります。でも、化石を探す方法が、直接的で確かなようです。ここでは、化石による最古の生物探しを紹介しましょう。
 最初の生物は、海に誕生したと考えられます。その理由は、現在の原始的な生物は、海の中や、熱水中などを生活の場としています。それに、進化した生物でも、陸に住もうが、地中に住もうが、空を飛ぼうが、体には母なる海の記憶を残しています。ヒトもそうです。血液は、海水と似た成分を持っています。なにより、体の80パーセントは、水(H2O)からできています。一個の細胞をとりあげれば、そこは、袋に入った海の環境を見ることができます。
 生命は、海から生まれたのです。
 海に住んでいる生物は、土砂と一緒に、堆積物中に取り込まれ、堆積物と一緒に岩石になり、化石として、現在に蘇ることがあります。化石になる事件は稀なことですが、長い時間とたくさんの堆積岩には、化石が稀ではなく見つかります。
 でも、まず、化石になるためには、しっかりした体をもっている必要があります。例えば、殻や骨、歯、木、種、花粉などは、化石として残りやすくなります。でも、このような生物は、ある程度進化した生物となります。「最初」の生物は、殻も骨もなかったはずです。柔らかい体で、水の中に、ぷかぷか浮いていたはずです。もっと前にいたはずの、生物と非生物の境界に当たるような生き物は、ますます、はかない体や入れ物しかなかったはずです。原始の生物ほど化石には残りにくいのです。
 でも、科学者は、世界各地に赴いて、古い時代の化石を探しています。現在、多くの研究者が、最古の化石と認めているのは、オーストラリア西オーストラリア州ノースポールと呼ばれる地域で見つかった約35億年前のものです。その化石は、チャートと呼ばれる岩石の中から見つかった非常に小さなものです。
 灼熱の砂漠のようなところに、化石を含む岩石があります。そんなところでも、生物はいきています。ですから、化石であることを示すには、現在の生物が紛れ込んで、見誤らないようにしなければいけません。岩石の中には、化石として入っているということを、はっきりと示さなければなりません。小さい化石なので、目で見ることはできません。そのために、大量の岩石が採集して、光を通すほど薄くして、顕微鏡でその存在を確認します。そのようにして得られた化石は、岩石の中に完全にはいっていると判定できます。大変な労力のいる仕事です。
 でも、そこから得られた結果は、重要です。だれが見ても、そこには、細胞のようなつくりや細胞が連なっている様子が認められます。写真をみれば、誰でも納得できるようなものです。多くの研究者は、その35億年前の前の化石が本物であると認めています。また、同じ地域を研究した、日本人の研究者も、同じ方法で化石を発見してます。
 ただ、その生物がどんな生き物であったかは、議論のあるところです。最初の発見者である研究者は、比較的浅い海で、光合成をしていた生き物であったと考えています。一方、日本人研究者は、深海の海嶺で、熱水噴出しているような環境に住んでいた生物と考えています。まだ、どちらが正しいかは、決着をみていません。
 さらに古い化石の候補として、最古の堆積岩の中に生物の痕跡が見つかっています。グリーンランドの約38億年前の堆積岩の中に含まれる小さな燐灰石(りんかいせき、アパタイト)という鉱物の化学組成の特徴から、生物による化学的作用が働いていたという説があります。多分この頃の生物は、非常に原始的で、もしかすると化石に残らないような生物ではなかったかもしれません。まだ議論が行われていて、決着をみていません。でも、もし、この38億年前の痕跡が、本当に生物のものであったら、それは、大変な結論を導きます。
 最古の堆積岩は、最初の海の証拠でもあります。最初の海に、最初の生命が宿るということになります。もしそうなら、生物とは、海さえあれば、簡単に生まれてくるもの、という仮説が成立します。生命とは、そんなにどこでも簡単に生まれるものでしょうか。そしてタフに現在まで生き延びてるものでしょうか。生命とは不思議なものです。