2001年10月4日木曜日

1_12 最初の固体(2001年10月4日)

 最初の固体とは、変な表現です。でも、地球はできた当時、どろどろに溶けたマグマの海が、表面を覆っていたのです。マグマは、やがて冷えて固まります。そのときマグマの海が冷え固まったものが、最初の固体となります。そんな古いものが果たして見つかるのでしょうか。
 地球最初の固体、それは最古の鉱物です。前に「1_5 「最古のもの」より古いもの」で紹介したものです。44億0400万年前の鉱物(ジルコン)がそうでした。その鉱物が、地球の歴史で持つ意味も「1_6 最古の鉱物のもつ意味」紹介しました。この発見は、多分、多くの研究者に衝撃を与えました。少なくとも私には、かなりの衝撃がありました。その意味を再度、紹介しましょう。
 「最古」の鉱物が発見される以前の最古の固体物質は、42億7600万年前の鉱物(ジルコン)でした。それが地球で見つかる最古の物質の限界かもしれないと考えられていました。
 それは、研究者が、月の歴史を知っていたからです。月の最古の物質は、45億年前のものが見つかっています。しかし、その物質も、さんざん探した挙句、やっと見つかったものです。その岩石は、斜長岩(しゃちょうがん)と呼ばれるものでした。その名の通り、斜長石だけからできている岩石です。斜長岩は、地球では珍しいものですが、月ではありふれた岩石です。
 月は、白っぽいところと黒っぽいところの2ヶ所があります。白っぽいところは、「高地」と呼ばれ、黒っぽいところは、「海」と呼ばれます。ご存知のように、「海」といっても、水があるわけではありません。
 斜長岩は、白っぽく見える「高地」と呼ばれる古い地形をつくっている岩石です。斜長岩は、たいていぐしゃぐしゃに砕かれて、角礫(かくれき)状の岩石になっています。ですから、本当は古い時代に高地はできていたのですが、ぐしゃぐしゃに砕かれたために、古い時代の記憶を残しているものがほとんどなかったのです。だから、古い時代の記憶を残した岩石を見つけるのに苦労したのです。
 月の斜長岩が、ぐしゃぐしゃに壊れているのは、激しい隕石の衝突のためです。昔、月には激しい隕石の衝突があったのです。35億年前以降、隕石の衝突は収まりました。黒っぽく見える「海」と呼ばれる地域は、玄武岩からできているのですが、「海」には衝突によってできたクレータが、「高地」に比べて非常に少ないのです。30億年前以降、月では、ほとんどマグマの活動はなく、事件というべきものは、時々隕石が衝突するくらいだけでした。
 このような月での隕石衝突の事件は、地球でも起こったと考えられます。つまり、地球誕生の45億年前からしばらくは、激しい隕石衝突が続いたのですが、35億年前ころには収まっています。ですから、45億年前にちかいような古い岩石は、ぐしゃぐしゃに砕かれ、地球でもほとんど残っていないと考えられていたのでした。さらに、地球では、現在にたるまで、常に地表が更新されているので、古い岩石の証拠は、あったとしても消されていきます。
 でも、このような新発見があると、惑星形成のモデルに重要な変更を迫ることがあります。今回の新発見は、月の歴史から見てあってもおかしくない予測されていた可能性の範囲でした。ただ、多分見つからないだろうと思われていたような年代でした。まさかみつかるとは、といいう感じです。