2001年10月25日木曜日

1_15 最初の海洋底(2001年10月25日)

 最初の海洋底とは、なんとくピンとこないいいかたです。海洋底とは、海の底という意味です。ですから、もちろん海の存在を前提とします。ここで扱う海洋底は、場所を表すのではなく、海洋底に深く広がっている岩石のことです。では、最古の海洋底の話をしましょう。
 海洋底は、どのような岩石がらできているのでしょうか。それは、現在、実際に掘られてわかっています。深海を掘削する計画(DSDP、ODP、OD21など)が世界各地の海底で実施され、海底の岩石を掘りぬいてきました。現在も深海を掘削する計画は続いています。
 今までの成果に拠れば、海洋底の一番上は、堆積物です。その厚さや種類は、場所によって違います。一般には、海底では、マリンスノーとして海洋の上部に棲んでいた生物の死骸が降り積もって集まった深海底固有の堆積物が主要なものです。その堆積物は深くなると固まり、チャートと呼ばれる岩石になります。堆積岩の下には、枕状溶岩を主とする玄武岩が厚くたまっています。枕状溶岩のもっと深部は、同じ玄武岩ですが、少し粒が粗くなって、枕状ではなく、岩脈(がんみゃく)という貫入岩と呼ばれる種類の出かたに変わります。さらに深部は、斑れい岩となり、それより下は、マントルを構成するかんらん岩となります。
 チャートは堆積岩ですが、玄武岩以下は火成岩です。つまり、マグマの活動でできたものです。それも、中央海嶺という一箇所で、一度に、できたものです。中央海嶺の下にはマグマが常に供給される環境(マグマ溜り)があります。中央海嶺の下のマントルと海洋地殻の境界部に、マグマ溜りができます。マグマ溜りから時々火山が活動して、海底に溶岩を噴出します。マグマ溜りから上昇したマグマの道の跡(火道(かどう))が岩脈で、水中噴出したものが枕状溶岩です。そして、マグマ溜りで、噴出せずに結晶として沈んだものがかんらん岩となり、マントルの一部となります。マグマ溜りがそのまま固まったものが斑れい岩です。
 マグマによる火成岩の海洋底セットが中央海嶺でつくられ、その後プレートテクトニクスによって移動するとき、上から生物の遺骸が積もってチャートとなります。陸に近いところであれば、陸の物質が、火山が近ければ火山灰が、浅い海なら石灰質の成分が、チャートに混じってきます。
 かんらん岩、斑れい岩、岩脈玄武岩、枕状溶岩、チャートがあれば、深海底のセット、つまり海洋地殻が判別できます。ただし、現在の海洋底では、一番古いものでも2億年ほど前ですので、さらに古いものは海洋底には期待できません。やはり、古いものを探すには、大陸です。
 現在、わかっている最古の海洋底セットは、グリーンランドのイスア地方にある約38億年前のものです。ここには、セットはばらばらになっていますが、海洋地殻のセットがあります。さらに、縞状鉄鉱層の厚い地層と海溝で溜まったとされる大きな礫の入った礫岩、花崗岩などの岩石が、小さな範囲で見られます。まるで今の中央海嶺から海洋底、海溝、大陸あるいは火山列島(島弧)を凝縮したような岩石があるのです。
 地球は、38億年前という非常に早い時期には、今と同じような姿であったという驚くべき結果ができてました。少なくとも、プレートテクトニクスが機能しており、陸があり、海があり、その関係は、継続的に今も続いているということです。

2001年10月18日木曜日

1_14 最初の陸(2001年10月18日)

 最初の陸とは、海でない部分だけを意味するのではありません。つまり水のないところを陸と考えますが、陸の特徴はそれだけではありません。海と陸と一対のものですが、地質学的には、海と陸をつくっているものが違うのです。陸は陸の石で、海は海の石でできています。そして、陸の石も海なくしてはできないのです。海と陸とは切っても切れない関係です。最初の陸の話しです。
 陸は、色々な岩石からできています。でも、起源による分類でいいますと、火成岩が圧倒的に多い岩石になります。なかでも、花崗岩(かこうがん)とその変成岩である片麻岩(へんまがん)が一番多い岩石です。大陸は、花崗岩からできているのです。
 花崗岩は、マグマが固まってできます。大量の花崗岩のマグマがどうしてできるかというと、説はさまざまですが、どの説でも水が必要となります。溶ける物質は、堆積物や大陸深部物質など、さまざまの考えがあります。水が、そのような地球深部の物質に加わることによって、花崗岩のマグマが大量にできます。水の供給源は海です。そして供給のメカニズムとして、プレートテクトニクスが考えられます。
 プレートテクトニクスとは、海嶺で形成されたプレートと呼ばれるものが、海底で冷えて、海溝で沈み込む、という一連の運動による地球の仕組みです。沈み込むプレートと共に、水を含んだ堆積物や岩石も沈み込み、潜るにつれて、圧力が上がります。やがて、水が絞りだされて、水は上昇し、上にある物質を溶かすのです。
 高温高圧の条件に置かれた物質に、水が加わると、溶けはじめることがあります。ですから、今まで固体であったところに、水が加わるとマグマができることがあるのです。その時に特徴的にできるマグマが、花崗岩質のマグマなのです。だから、花崗岩と水とは密接な関係があるのです。
 大陸には古い時代の花崗岩たくさんあります。そして、各時代に花崗岩があります。ということは、間接的ではありますが、花崗岩の存在自体が、海の存在の証拠となります。
 ことろで、最古の花崗岩はどれくらいまで遡るのでしょうか。一番古い花崗岩は、約40億年前のものです。カナダの北西準州のアカスタ地域で見つかったものです。水の存在の可能性(42.8億年前)よりは、古くなりませんが、最古の堆積岩(38億年前)よりは、古いものとなります。
 10年以上前になりますが、そのアカスタ地域を調査したことがあります。すると、不思議なことに、「当時、最古の花崗岩(39.8億年前)」より古い岩石を見つけました。それは、地質学的証拠から明らかになったものです。その証拠とは、最古の花崗岩がマグマとして入り込んだという現象(貫入(かんにゅう)という)が、見つかったのです。
 最古の花崗岩が貫入している岩石は、斑れい岩が変成されてできた角閃岩と呼ばれる岩石です。つまり、最古の花崗岩がマグマとして貫入するとき、斑れい岩はすでに固体として存在したことを示しています。でも、その角閃岩の年代を決定することができないため、最古の座を奪えなかったのです。そうこしているうちに、同じ地域の同じような岩石で、より古いものが発見されたのです。でも、もしかするとその角閃岩は本当は、まだ最古の座をもっているかもしれません。それは、その角閃岩のみが知っているのです。

2001年10月11日木曜日

1_13 最初の海(2001年10月11日)

 最初の海。それは、いつできて、どのようなもので、何が起こったのでしょうか。過去の海を、現在から、どうして探るのでしょうか。最初の海にまつわる話です。
 最初の海も、やはり液体の水を主成分としていたはずです。そう考えるには、いくつかの理由があります。
 まず、水(H2O)の成分である水素(H)と酸素(O)が、太陽系では(宇宙においても同じことがいえます)非常に多い成分であること。つまり、ありふれた成分で、どこにでもたくさんある物質なのです。つぎに、太陽からの位置から考えて、地球付近ではH2Oは、固体や気体ではなく、液体として存在できる条件なのです。このような理由から、地球の海は、液体のH2Oが主成分であると考えられます。
 現在の海は、水を主成分としていますが、その他の成分が色々混じっています。その成分まで、最初の水と一緒かどうかはわかりません。でも、多くの成分は、最初の海にも溶けていたはずです。その理由は、水自身の性質によります。水は、非常に他の成分を溶かしやすい性質があります。地球の表面は、非常に多様な成分からできていたはずですから、その成分の中で水に溶けやすいものが、最初の海の副成分になったはずです。このような副成分を気にするのは、最初の海が、生命の誕生の場として一番ふさわしく、その場には生命の材料や生命誕生の条件が整っていなければならないからです。
 さて、最初の海の証拠なんて、あるのでしょうか。それは、石の中にあります。石の中でも堆積岩は、川によって運ばれた土砂が、海でたまって固まったものです。ですから、古い堆積岩を探せば、その時代には海があったという証拠になります。直接海を見ているわけではありませんが、海でできたものが残っていれば、それは、海があった証拠となるわけです。
 最初の海の証拠は、現在のところ、38億年前のグリーンランドの堆積岩が最古のものです。礫岩から砂岩など、現在でもみられるような堆積岩があります。また、縞状鉄鉱層という不思議な堆積岩もあります。縞状鉄鉱層は、海水中の鉄のイオンが酸化され、沈殿してできた岩石です。そんな岩石が、38億年前にあったのは、非常に不思議な話しですが、それは別の機会に紹介します。でも、このような堆積岩の存在は、38億年前には海があった動かぬ証拠となっています。
 その後、地球の各地から、さまざまな時代の堆積岩が見つかっています。ほぼ全ての時代の堆積岩があります。このことから、38億年以降、地球には現在に至るまで、海が存在しつづけているのです。つまり、地球の表面は、0℃から100℃の間に収まっているのです。それは、最初に述べたように、地球は、太陽から液体の水が存在できる位置にいるからなのです。
 さらに古い海の証拠として、「1_6 最古の鉱物のもつ意味」で紹介した42.8億年前のジルコンがあります。そのジルコンの酸素同位体から、マグマの酸素同位体組成を推定し、マグマをもたらした物質が、堆積岩であったという仮説があります。そのような仮説は、論理的には可能ですが、まだ真偽の程は定かでありません。

2001年10月4日木曜日

1_12 最初の固体(2001年10月4日)

 最初の固体とは、変な表現です。でも、地球はできた当時、どろどろに溶けたマグマの海が、表面を覆っていたのです。マグマは、やがて冷えて固まります。そのときマグマの海が冷え固まったものが、最初の固体となります。そんな古いものが果たして見つかるのでしょうか。
 地球最初の固体、それは最古の鉱物です。前に「1_5 「最古のもの」より古いもの」で紹介したものです。44億0400万年前の鉱物(ジルコン)がそうでした。その鉱物が、地球の歴史で持つ意味も「1_6 最古の鉱物のもつ意味」紹介しました。この発見は、多分、多くの研究者に衝撃を与えました。少なくとも私には、かなりの衝撃がありました。その意味を再度、紹介しましょう。
 「最古」の鉱物が発見される以前の最古の固体物質は、42億7600万年前の鉱物(ジルコン)でした。それが地球で見つかる最古の物質の限界かもしれないと考えられていました。
 それは、研究者が、月の歴史を知っていたからです。月の最古の物質は、45億年前のものが見つかっています。しかし、その物質も、さんざん探した挙句、やっと見つかったものです。その岩石は、斜長岩(しゃちょうがん)と呼ばれるものでした。その名の通り、斜長石だけからできている岩石です。斜長岩は、地球では珍しいものですが、月ではありふれた岩石です。
 月は、白っぽいところと黒っぽいところの2ヶ所があります。白っぽいところは、「高地」と呼ばれ、黒っぽいところは、「海」と呼ばれます。ご存知のように、「海」といっても、水があるわけではありません。
 斜長岩は、白っぽく見える「高地」と呼ばれる古い地形をつくっている岩石です。斜長岩は、たいていぐしゃぐしゃに砕かれて、角礫(かくれき)状の岩石になっています。ですから、本当は古い時代に高地はできていたのですが、ぐしゃぐしゃに砕かれたために、古い時代の記憶を残しているものがほとんどなかったのです。だから、古い時代の記憶を残した岩石を見つけるのに苦労したのです。
 月の斜長岩が、ぐしゃぐしゃに壊れているのは、激しい隕石の衝突のためです。昔、月には激しい隕石の衝突があったのです。35億年前以降、隕石の衝突は収まりました。黒っぽく見える「海」と呼ばれる地域は、玄武岩からできているのですが、「海」には衝突によってできたクレータが、「高地」に比べて非常に少ないのです。30億年前以降、月では、ほとんどマグマの活動はなく、事件というべきものは、時々隕石が衝突するくらいだけでした。
 このような月での隕石衝突の事件は、地球でも起こったと考えられます。つまり、地球誕生の45億年前からしばらくは、激しい隕石衝突が続いたのですが、35億年前ころには収まっています。ですから、45億年前にちかいような古い岩石は、ぐしゃぐしゃに砕かれ、地球でもほとんど残っていないと考えられていたのでした。さらに、地球では、現在にたるまで、常に地表が更新されているので、古い岩石の証拠は、あったとしても消されていきます。
 でも、このような新発見があると、惑星形成のモデルに重要な変更を迫ることがあります。今回の新発見は、月の歴史から見てあってもおかしくない予測されていた可能性の範囲でした。ただ、多分見つからないだろうと思われていたような年代でした。まさかみつかるとは、といいう感じです。