2001年9月27日木曜日

1_11 地球最初の大気(2001年9月27日)

 地球での「最初の出来事」は、すべて冥王代(45.6億~40億年前)に起こりました。地球で、最初の大気ができたのも、最初の海ができたのも、そして最初の固い物質ができたのも、最初の陸ができたのも、冥王代という時代です。冥王代をいう時代を探るにあたって、まず、地球最初の大気について見ていきましょう。
 最初の大気とはどのようなものでしょうか。2つの候補があります。
 一つは、地球だけでなく、太陽系全体に共通する大気です。それは、水素(H2)とヘリウム(He)を主成分とする大気です。原始太陽系ガスと呼ばれます。これは、太陽系ができるときにあった成分です。水素とヘリウムは、宇宙でも、もっとも多い、つまりありふれた成分でもあるわけです。固体成分は、惑星をつくり、残りが惑星の原始的な大気となりました。
 太陽系の内側にある惑星(水星、金星、地球、火星)の水素とヘリウムの大気は、ある時期に吹き飛ばされました。なぜなら、今の金星、地球、火星にはこのような大気が残っていないからです。太陽ができて間もない頃、非常に明るく輝く時期があります。その時に、太陽に近い惑星の原始太陽系ガスが、吹き飛ばされた可能性があります。いつ吹き飛ばされたかは、現在の太陽系形成のモデルでは、まだ結論はでていません。
 もう一つの大気は、原始的(隕石の世界では始源的という)隕石に含まれていた成分が、原始的大気をつくったというものです。
 始源的隕石には、二酸化炭素(CO2)あるいは一酸化炭素(CO)や、水蒸気(H2O)、窒素(N2)などの成分が含まれていす。惑星がつくられるとき、このような隕石が、惑星の材料として、衝突したり合体したりして、惑星が成長していくと考えられています。衝突したとき、始源的隕石が、高温高圧条件になり、ガスの成分が抜け出て、それが大気をつくったというものです。このような説は、衝突脱ガス説と呼ばれています。
 上で述べた2つのモデルには、大きな違いがあります。最初の大気の主成分が、原始太陽系ガス説では水素とヘリウムで、衝突脱ガス説では、二酸化炭素と水蒸気です。
 成分以上に2つのモデルには、大きな違いがあります。それは、原始太陽系ガス説では、大気に水素が大量にあることになるため、還元的な大気といえます。一方、衝突脱ガス説では酸化的な大気となります。この違いは非常に重要です。大気にさらされているものは、還元的な環境では酸化物は還元しますし、酸化的な環境では酸化物はさらに酸化します。ある環境の下に置かれたものは、その環境に応じて、より安定したものへと、変化していきます。環境が、還元的か酸化的かでは、全く別の方向に進むことを意味します。
 2つの説は、どちらか一つだけが起こったのではなく、両方が起こったかもしれません。もしそうなら、その時期や順番がどうであったかが、問題となります。でも、両モデルがどちらがいいか、まだ決着をみていません。
 地球のはじまり、それは私たち自身のはじまりを意味します。「私たちは、どこから来たのか」に対する答えは、まだ成分すらわからない霧の中なのです。

2001年9月20日木曜日

5_12 万物の年齢を調べる

 宇宙や地球は、いつ生まれたのでしょうか。そして、現在、何歳なのでしょうか。私たちは、宇宙の中で宇宙の一部として、地球の中で地球の一部として生まれました。宇宙や地球の一部として存在する私たちが、どうすれば自分より古いものの年齢を知ることが出来るのでしょうか。年齢の調べ方を紹介します。

 「5_4 年代決定の原理(2001年2月22日)」のエッセイで、ジルコンという鉱物の1個からも年齢を決めることができるということを紹介しました。今回は、もっと広く、年代を知るには方法を考えましょう。
 時間を知るためには、一般に、時計を利用します。宇宙や地球の「時」を測るには、2種類の時計を利用することが可能です。
 最初の時計は、ずっと動き続けている時計です。それは、過去も現在も、そして将来も動いている時計です。その時計を用いて、生まれた時の「時刻」を記録や、記憶しておけばいいのです。人間の年齢は、両親が、自分の生年月日・時刻を覚えてくれているために、その「時刻」から現在までの期間が、自分の年齢として測ることができます。これが第1の時計です。
 人間のように時刻を記憶できないものは、どうすればいいのでしょうか。石ころや、地層、化石などの年齢は、どうして求めるのでしょうか。それが、第2の時計です。この時計は、生まれたものの中でスタートする時計です。あるいは死ぬとスタートする時計です。そのような時計を探し出して、その時間を読取るという方法があります。
 両方の時計において、「放射性核種」と呼ばれる元素が、時を刻む役割をします。
 元素には、同じ元素なのに少し重さの違う同位体(どういたい)と呼ばれるものがあります。同位体の違い区別して元素を呼ぶ場合、核種(かくしゅ)という呼び方をします。同位体の中には、放射能を出す核種があります。放射性核種が、年齢を知りたい石ころにあれば、その時間を読取ることが可能です。
 放射性核種は、一定の時間がたてば壊れて、別の安定な類種に変わります(崩壊(ほうかい)あるいは壊変(かいへん)といいます)。ですから、放射性核種(親核種)と、壊れてできた安定核種(娘核種)の量が正確にわかれば、放射性核種ができてからどれくらい時間がたったかわかります。
 放射性核種が目的のものの中に見つけることができれば、時計を手に入れたことになります。
 放射性核種は、宇宙ができた時と、超新星爆発によってできます。地球を計るときは、太陽系が形成されるもととなった超新星爆発になります。これが第1の時計にあたります。また、太陽の放射や宇宙の放射によって、常にある一定(平衡状態といいます)の放射性核種が形成されていて、その形成の作用が何らかの理由でストップした時に、放射性核種の平衡状態から壊変が進む場合が第2の時計です。
 マグマからできた岩石では、もう一つ巧妙な仕組みの放射性核種を用いた時計が、利用できます。マグマは、岩石が溶けて形成されます。もとの岩石の中ではバラバラであった親核種と娘核種の量が、マグマという液体になると均一の値になります。そして、マグマが固まって各種の結晶ができる時、結晶の種類、あるいは岩石の種類によって、親核種の量が変化します。岩石ができて長い時間たつと、親核種の量が違うので、そこからできる娘核種の量も違ってきます。ですから、同じマグマからできた、岩石や結晶をいくつか集め、その親核種と娘核種の量から経過した時間を測ることができます。
 こうしてみていくと、「時」を計るということにも、科学者の努力のあとがうかがわれます。まさに、人類の知恵の集積がみれて、非常に興味深いことです。

2001年9月13日木曜日

6_9 ヒトとは

 私たちヒトは、他の生物に比べて、何が優れているのでしょうか。もしどこかが優れているとすると、人は地球を代表する生き物と呼べるのでしょうか。古くから現在まで生きている古細菌のような、「古い家系」の生き物のほうが、代表としてはいいのではないでしょうか。ヒトとはなにかついて考えてみましょう。

 私たちの根源的な疑問として、「私たちは、どこから来たのか」、「私とは、何か」、「私たちは、どこへ行くのか」というものがよく挙げられます。ヒトについて考えるとき、ヒトとは何かを、決めておかねばなりません。まず、「ヒト」についてです。どういうものを人と呼びましょう。まずは地球人についてみていきましょう。
 ヒトを文化を持っている生物としましょう。でも、サルには、イモを洗う文化や、石でクルミを割る文化を伝え継続するものもいます。鳥の求愛のディスプレイなんかは、すばらしい文化のように見えます。
 ヒトを文明をもっている生物としましょう。文明を農業をすることとしますと、サキリアリは、葉を切り取り巣に運んでそこで菌類を栽培しています。まさに農業をする生物です。共生関係なくかは飼育や牧畜のような文明のようにみなすこともできます。
 ヒトを文化ではなく言語を用いる生物にしましょう。言語によってヒトはコミュニケーションします。でもコミュニケーションする言語は多くの哺乳類や鳥類で見られます。言語を用いてヒトとコミュニケーションするチンパンジーがいます。言語を用いてヒトとコミュニケーションするチンパンジーがいます。
 その言語も文字としましょう。そうすれば他の生物にはできないことかもしれません。ただし、書けないにしても、人に訓練されたチンパンジーには、文字を理解しているものもいます。京大霊長類研究所のアイというチンパンジーは文字を理解しています。
 文字を書くこと、そしてそれを他の個体や子孫に伝える手段を持つことそれが重要です。
 しかし、ヒトの特徴を持っていることが、実はヒト固有のものは少なく、他の生物でも同じようなことをしていたり、もっと特殊化したものにまで発展させていることもあります。つまり、ヒトとはそんなに特殊、特別なことをあまりしていないということです。ヒトは、特殊化していないこと、特別でないこと、そして、他の生物が、それをすることを種が多大な変化(進化)をしていることもあります。
 生物としていて、ヒトは一つ一つの能力では一番ではないかもしれません。しかし、多くのことを器用に、多機能にこなすこと、ヒトの特徴かもしれません。そのために、特別な変化を用いずにおこなってきたことが、今後も変化をもたらす可能性を秘めていると思います。つまり、ヒトは、特別でないことも、将来性の一つと考えられます。

2001年9月6日木曜日

1_10 星の輪廻(2001年9月6日)

 形あるものはやがてなくなります。星も例外ではなく、やがて死にます。死んだ後に、その屍は他の星の材料になります。まさに輪廻転生です。星の死は、星の再生でもあります。星の再生は、全くといっていいほどのオーバーホールがなされます。それは星の死のすざましさに由来してます。
 星は、自分自身の物質による引力と、核融合によって発生する熱による張力のもとに安定しています。そのバランスがくずれる時、星の終わりが訪れます。その最期は、星の大きさが大きいほど激しくなります。一番激しい終わり方が、超新星爆発と呼ばれるものです。
 星の中では、水素(H)が核融合して、ヘリウム(He)となります。つまり、星の燃料は水素です。
 大きな星は、引力が強力な分、核融合による熱の発達も多くなります。つまり、熱く明るくなります。星は温度が高くなるにつれて、赤から黄色、白へと変化していきます。大きな星では、核融合が早く進むので寿命が短くなります。
 水素が不足してくると、核融合による張力が足りなくなります。つまり、星としてのバランスが崩れます。引力による縮もうとする力が優ります。そして、縮むと、引力によってヘリウムより大きな元素の核融合が起きます。星の引力に応じて、核融合によって重い元素ができます。しかし、星の中で核融合できるのは鉄(Fe)までです。
 それは、鉄より重い元素は、核融合がおきても熱を放出しないからです。核融合するには、エネルギーをつぎ込まなければなりません。つまり「熱える」は鉄までの元素で、鉄より重い元素は「熱す」必要があるわけです。
 元素が「熱される」は、超新星爆発のときです。バランスのくずれた星が最期に大爆発をする時、重い元素が合成されていくのです。そして、爆発によって重い元素が宇宙にバラまかれます。
 宇宙が始まった時、重い元素はありませんでした。ほとんど、水素とヘリウムだけでした。星の中に星の爆発によって、重い元素が宇宙に増えていったのです。
 私たちの体は、水素と酸素つまり、水を主成分として、炭素(C)、窒素(N)、リン(P)などの重い元素があります。また、地球には鉄や鉄より重いウランまでの元素が含まれています。太陽にも同じように重い元素が見つかっています。つまり、私たちの太陽を構成している元素を見ても、超新星爆発が事前に必要だとわかります。
 私たちは、宇宙開闢当時に作られた元素、星の中で作られた元素、超新星爆発で作られた元素からできています。私たちは、まさに「星の子」といえます。そして、私たちの太陽の死は、新たな星の誕生へと継がります。

2_12 地球生命の代表

 地球を代表する生き物とは、何でしょうか。ヒト、それも一つの答えです。文明や科学などの尺度で見れば、そうかもしれません。でも他の尺度で見れば、ヒトは地球の代表とはいえません。地球を代表する生命は何か、考えてみましょう。
 地球から無作為に地球生物から1つの個体を選んだとしましょう。あなたが、代表に選べるのは、世界人口の60億分の1でしょうか。いえいえ、多分、あなたも私も、いやヒトは地球生命の代表になれません。
 代表になるための予選をしましょう。公平になるように、箱の中に0から46までの番号が書かれた玉が入っているとしましょう。その中に00と書かれて玉も入れておきましょう。
 これは、地球生命のうちで、ヒトという種類を引き当てることができるかどうかというゲームです。
 地球生命の生存期間が、玉に書かれた番号とします。各番号は、地球における1億年の歴史(期間)を表わすことになります。例えば、1という番号は1億年前から2億年前までの時代で、35は35億年前から36億年前まで時代を意味します。ただし、0は1億年前から200万年前で、00は200万年前から現在までとします。
 このゲームでは、ある生物のグループが、その時代に生きていれば予選に勝ち残れます。つまり、より長く地球上に存在していたものが、断然、有利となります。
 0~46までのうち、39~46は、生命のいない、地球生命全体が負けのところです。38~36は、生命がいたかどうかは灰色ですので、引き分けで再度玉を投げましょう。0~35は、私たち以外の生物が予選を突破します。00が出たとき、始めて私たちヒトが予選突破できます。生存期間で見る限り、ヒトは予選突破は非常に困難です。多分、地球生命の代表とはなれそうにありません。確率的に代表になりやすいのは、最初に生まれ、現在も生きている古細菌とよばれる微生物の仲間です。いってみれば、私たち、ヒトは、こんなに短い時間しか、地球に存在していないのです。
 低い確率ですが、00を引いたとしましょう。次は2次予選です。箱に1億個の玉を入れます。その中から、1個抜いて、引かれたものが決勝に残れるとしましょう。何個抜いても良いですが、とりあえず10個にしましょう。玉には、生物の種名が書かれています。これは、種数による選択です。
 現在の生物種は、150万種といわれています。でも、それは、ヒトが知っている生物種の数で、本当は数千万種とも1億種ともいわれています。ですから、1億個の玉としました。10回引いた時、ヒトがその中に含まれているいる確率は、1000万分の1です。ずるをして、現在生きているホモ(ヒト)に加えて、アウストラロピテクスなどの化石種も、ヒトと見なして10個ばかりヒトと書いて加えてもおきましょう。それでも、ヒトの仲間が選ばれるのは、100万分の1です。多分、種数でいっても、古細菌や細菌などの微生物が選ばれるでしょう。
 さて、決勝です。10種の生物すべて集めて、個体数の数に見合った玉を入れておきましょう。玉には個体ごとの種名を書いておきましょう。多分、ヒトが選ばれる確率は、限りなくゼロに近いものでしょう。なぜなら、微生物は非常に小さいですが、その数たるや、膨大なものだからです。そこに、大型の哺乳類が多数を占めていたら、もしかしたらヒトが勝つ確率があがります。でも、ネズミのような小さな哺乳類なら負けます。
 このような予選や決勝を勝ち抜いたものを、地球の代表とすることが、一番、フェアな選択です。でも、どうしても、身びいきをして、ヒトを代表とする理屈を、私たちヒトは付けようとします。本当に妥当性があるのでしょうか。それは別のエッセイで考えましょう。
 ここでいいたかったのは、ヒトが地球時間に占めてきた割合においても、全生物種の数においても、個体数においても、非常に微々たる存在であるということです。ですから、ヒトは、だれも賭けそうもない大穴というほどの存在であるということです。