2001年8月2日木曜日

4_10 恐竜の化石:ロイヤル・チレル博物館

 カナダ、アルバータ州ドラムヘラーには古生物専門の博物館があります。ロイヤル・チレル博物館は、古生物専門ですが、世界的にその名は知られています。今回は、今年の7月7日に訪れたロイヤル・チレル博物館を紹介しましょう。


 地平線のかなたまで緑の平原。その中を流れるレッド・ディア川沿いは、バッドランド(Badland)と呼ばれる地帯があります。バッドランドとは、その名の通り、荒涼とした異次元の世界のような景色です。でも、そんな異次元の大地から、古い時代の生物の化石がたくさん見つかります。特に、恐竜の化石がたくさん出ることで世界的に有名です。
 ドラムヘラーの町は、恐竜で町おこしをしているようです。街灯の柱には、各主の恐竜のシンボルが取り付けられています。公園には、10メートル以上もある巨大な恐竜のモニュメントがあります。その恐竜は、もちろん最強の肉食獣、ティラノザウルス(Tレックスとも呼ばれます)です。
 ロイヤル・チレル博物館の名前は、J. B. Tyrrellという地質学者の名前に由来しています。チレルは、26歳の時に、政府から、アルバータ州中部地域の石炭と鉱床の調査に派遣されました。1884年8月12日、バッドランドの調査中、キャンプの近く、川から20メートル上のガケから恐竜の化石を発見しました。チレルは、カナダで最初の肉食恐竜の化石であるアルバトサウルスの頭骨を発見しました。発見した場所は、現在の博物館あるところから数キロメートルのところです。
 ロイヤル・チレル博物館は、古生物専門の博物館ですから、化石を中心として展示が展開されています。地球の歴史が示され、化石の少ないプレカンブリア紀も紹介されています。しかし、化石が出始める5億9000万年前以降の顕生代が、展示の中心となっています。古生代(5億9000万~2億3000万年前)のバージェス頁岩から、新生代(6500万年前~現在)の哺乳類まで展示されていますが、中心はなんといっても中生代(2億3000万~6500万年前)の恐竜です。
 広い展示場に化石が多数展示されています。大きな恐竜の化石が、動き出さんばかりの躍動的な姿をして置かれています。また、化石を石から掘り起こす作業(クリーニングといいます)をする作業所も、ガラス越しに見学できるようになっています。私が行ったときは、土曜日で作業は休みだったので、クリーニングの様子は見れませんでしたが、10人近くが働けるような広さでした。
 日本では、専門の作業員すらいないことが普通です。あるいは、雇えないのが、現状です。このような格差は、欧米に行くたびに痛感させられることです。科学に対する投資の少なさ、それは日本の科学に対する意識の低さの表れかもしれません。
 ロイヤル・チレル博物館は、古生物の博物館なのに温室があります。ここには、カナダで現在生育している「生きている化石」というべき植物が、118種も集められています。多くは7000万年前から生えているものと同じで、ある種の植物は1億8000万年以降ほとんど変化していないそうです。また、あるものは、その祖先が古生代のデンボン紀(5億~4億2500年前)まで遡れるそうです。過去の生きものを、ここまで徹底して、集め、研究し、展示する。これぞ世界に名だたる博物館の所以ではないでしょうか。
 博物館周辺の散策路(トレイル)を1時間ほどあるくツアーに参加しました。20人ほどのツアーで、子供も何人か参加していました。ある場所で、「さあ、恐竜の化石を探しましょう」とガイドが声をかけると、子供達は大喜びで探し始めます。しかも、簡単に化石が見つかります。もちろん破片ばかりですが、恐竜の化石の破片が、子供にも簡単に見つけることができます。子供には非常にいい実物教育だと思います。そして、多分、この感動は、子供達はけっして忘れないでしょう。そして、それに感動した何人かは、古生物の専門家(研究者やクリーンニング作業員、教育者)、あるいは化石好きな大人になるのでしょう。このような脈々と続く教育と研究の継承が、欧米の科学に対する理解と、その底力となっているのではないでしょうか。