2001年7月19日木曜日

5_10 亡骸から

 「5_9 今は亡きもの」続いて、ヨウ素の放射性核種からできたキセノンについてみていきます。ヨウ素を親として、キセノンは娘として生まれました。その親子がそろうと、地球誕生の秘密が見えてきます。前回の「5_9 今は亡きもの」とあわせて読んで下さい。

 キセノン(Xe)は希ガスですので、固体にはほとんど入りません。ヨウ素(I)は、宇宙空間では固体として振舞います。つまり、ヨウ素は消滅する前であれば、固体になるはずです。つまり、その頃にできた固体物質(隕石)に取り込まれている可能があります。固体中でヨウ素からキセノンに変わっても、固体であるがためにキセノンを保持しくれます。もし、そのようなヨウ素が見つかれば、超新星爆発から固体物質形成までの期間が推定できます。
 さて、実際の測定です。問題は、過剰の129キセノンをどうして見つけるかです。地球大気における128Xe/132Xeの実測値から予想される129Xe/132Xeと、試料の129Xe/132Xeを比べればいいわけです。そして、試料の129Xe/132Xeが予想より多ければ、過剰の129キセノン、つまり消滅核種の129ヨウ素が固体中にあったということになります。過剰の129キセノンが、隕石から、1960年に見つかったことは前回紹介しました。
 その隕石中の過剰129キセノンの量と消滅核種の129ヨウ素の量から、隕石ごとの形成年代差を推定することができます。
 その方法は、実験と数学的トリックを使います。実際の分析では、誤差を減らすために、132キセノンと129キセノンの比、132キセノンと128キセノンの比として測定します。
 また、核種の比は、132キセノンと127Iを分母にするために、数式上、128Xe/127I比が必要となります。それは、127ヨウ素を原子炉で放射線(熱中性子)を照射して求めます。現在の129Xe/132Xeと128Xe/132Xeを試料の温度を段階的に上げながら、実測できます。以上のようにして、計算に必要な値ががすべて得られます。その結果、多くの隕石は、約2000万年の間に形成されたことがわかってきました。
 消滅核種の26Alの半減期71.6万年という非常に短いものが、ある隕石(アエンデとよばれる炭素質コンドライト)のある物質(一番初期に形成された固体で白色包有物と呼ばれるもの)から見つかりました。ですから、超新星爆発から固体物質の形成までは、約2000万年より、もっと短い期間であったと予想されます。
 隕石にはこの他にも、面白いことが一杯わかっています。そして、今後も、隕石からは面白いことが一杯発見されると思います。それは、別の機会に、お楽しみに。