2001年5月31日木曜日

2_11 酸素をつくったもの

 いつも吸っている空気は、昔から、今のようなものだったのでしょうか。それとも時と共に変化しているのでしょうか。もしそうなら、その変化は、どこかに記録されているのでしょうか。今回は、空気の中の酸素についてみていきましょう。
 現在の空気には、体積で20%の酸素が含まれています。人は酸素を吸って、二酸化炭素を出しています。動物も同じです。私たちが生きるためには、酸素はなくてはならないものです。
 ものが燃えるとき、酸素を使います。火力発電所や車のエンジンは、多量の酸素を消費しています。私たちの文明は、酸素のもとに成り立っているといえます。もし酸素がなければ、今のような文明ができなかったはずです。もしかするとイルカは、「燃やす」ということができないために、知能があったのに文明が築けなかったのかもしれません。
 酸素は、無尽蔵にあるかのように思えますが、有限なのです。なぜなら、地球の大気の量は決まっています。大気の2割が、酸素の量となります。しかし、現在のところ酸素は、いくら使ってもその比率が変化しません。大量の酸素を、私たち人類が消費しているのに減らないというのは、もともと非常に大量の酸素があるということと、酸素が生産されているためです。
 酸素を補給しているのは、いうまでもなく植物です。つまり、光合成をおこなう生物です。光合成によって、二酸化炭素が炭素と酸素に戻されているのです。では、この仕組みはいつ始まったのでしょうか。
 その証拠は、ストロマトライトという岩石に隠されています。ストロマトライトは、世界各地で、20億年くらい前の地層中から大量に見つかっています。ストロマトライトとは、「同心円状の石」という意味です。その意味の通り、マッシュルーム状の形をした石で、中が同心円状の縞模様があります。ところによって、水平な縞模様を持つものもあります。このストロマトライトという石は、非常に特異なのですが、少し前までどうしてできたのかわかりませんでした。
 ストロマトライトと同じものが、現在でもつくられていることが、近年、わかりました。有名なのは、西オーストラリアのシャーク湾ハメリンプール付近の海岸のものです。その石は、海岸線に沿ってマッシュルームが林立したような状態で見つかりました。満潮時にはマッシュルーム全体が水没し、干潮時にはマッシュルームは水面上に顔を出します。マッシュルームの表面は、小さなシアノバクテリアにびっしりと覆われています。シアノバクテリアとは、光合成をする生き物です。
 ストロマトライトは、シアノバクテリアによってつくられたことが判明しました。約20億年前に大量のストロマトライトがあるといいうことは、その頃大量の光合成がおこなわれたことになります。つまり、大量の酸素が、20億年前につくられたということです。大量の酸素は、海水中のイオンを酸化しました。そして当時の海水の中にたくさん含まれていた鉄イオンが、サビとして沈殿しました。それが、大量の縞状鉄鉱層として、約20億年前に形成されました。ストロマトライトと縞状鉄鉱層は関連していたのです。
 海水中に酸化するものがなくなると、やがて酸素は、大気中にでてきました。これが、今吸っている酸素の起源です。
 最古のストロマトライトは、約28億年前のものです。少し前まで、ストロマトライトは35億年前のものが最古とされていましたが、それは、ストロマトライトではなかったのです。その「偽ストロマトライト」の形成環境は、シアノバクテリアが住めない深海でした。深海は、太陽光が届かず、光合成はできないのです。そのため約28億年前の化石が、現在のところ最古の光合成の証拠となっています。
 私たちが吸っている酸素、それは、昔から現在にいたるまで生物がつくりつづけてきたものです。そして、約20億年前まで酸素のない環境が、ある時を境に、酸素のある環境となったのです。私たちが吸っている空気には、そのようは地球の永い歴史が織り込まれていたのです。

2001年5月24日木曜日

1_8 生命と地球の関わり(2001年5月24日)

 生命と地球は、決して対立を続けてきたわけではありません。ともに変化してきたのです。地球が生命に一方的に影響を与えたのではなく、生命も地球に影響を与えてきました。地球と生命は共に変化しあいながら、現在に至りました。それが、現在の地球環境なのです。
 生命は、地球の表面に誕生しました。その後、生命は、進化を続け、地球の多様な環境に住めるようになりました。現在、生命は、地表のありとあらゆるところに進出してきました。その様は、地球に対して、生命が戦いを挑み、その結果、自分達の住む環境を勝ち取ったように見えます。しかし、それは地球と生命の織り成す仕組みの、ほんの側面しか見ていません。地球と生命は、もっと複雑に絡み合っているのです。
 生命は地球の各地を棲家として、過酷な環境を克服してきました。このような見方は、局所的、瞬間的には正しいものです。しかし、地球の46億年という長い営みの中で、生命と地球の関わりを見ていきますと、決して生命と地球は対立してきたわけではありません。むしろ共に歩んできたといういべきことも、多数見つかってきました。
 2種の生物間にお互いに影響しあいながら進化していくことを、生物の世界では「共進化」と呼びます。地球と生命に対して、「共進化」という言葉が当てはまるような変化があります。地球と生命の共進化の結果生み出されたのが、今の地球環境なのです。共進化の結果の一つが、大気に残されています。
 現在の地球の大気は、窒素が80%、酸素が20%の成分を持ちます。地球の大気だけ「空気」と呼んで、他の惑星の大気と区別されています。地球と兄弟星とも呼ばれる金星の大気は、地球の大気の90倍位の密度を持っています。金星の大気の大部分は、二酸化炭素(97.4%)で、残りが窒素(2%)で、酸素はほとんど含まれません。火星の大気は、地球の160分の1位の密度しかありません。大気の成分は、やはり酸素をほとんど含まず、二酸化炭素を主成分(95%)として、窒素(3%)を少し含む大気です。
 地球の両隣の惑星の大気は、密度がまったく違いますが、成分は非常に似ています。このような類似は、惑星の起源に由来していると考えられています。金星と火星は、惑星ができた時の大気の成分をそのまま保持し、地球はその成分を変化させてしまったと考えられています。その大気の成分の変化が共進化によるものなのです。
 かつて、地球の酸素の起源は、太陽の光化学反応という説もありました。しかし、他の惑星探査や地球の歴史がわかるにつれて、その説は否定されました。現在では、大気中の酸素は、生命の活動によるものと考えられています。現在も大量の酸素が、植物の光合成作用によって形成されています。酸素は、酸素を利用する生物にとっては非常に有用な成分ですが、利用できない生物には、有害で、毒のように作用します。酸素は多くの物質を酸化させてしまうのです。地球の表面は、現在では非常に酸化的な環境になっています。
 酸化的環境は、地表の化学的状況を変えます。光合成をする生物が大量に発生しますと、海水中の酸化されやすい成分である鉄(Fe)が酸化され、サビとなって沈殿します。その結果、酸化によって形成された岩石、縞状鉄鉱層が、ある時期大量に形成されます。縞状鉄鉱層は大陸の各地に現在地層として残っています。その大部分が約20億年前に形成されたものです。つまり、地球表層は約20億年前に激しく酸化されたのです。その元をたどれば、光合成生物の大量発生なのです。
 その後も酸素はつくられ続け、海の中で酸化するものがなくなると、大気中に多くの遊離酸素がでてきました。やがてその量が20%にも達しました。大量の酸素が大気にできますと、大気の上部にオゾン層が光化学反応で形成されます。その結果、地表へ降り注ぐ紫外線の量が減ります。紫外線はDNAの結合を切ってしまう有害な光線でしたので、生物は海から出れなかったのです。しかし、オゾン層の形成によって、海から陸への進出が可能になりました。そして、陸地にはいたるところに生物が進出し始め、やがて大森林も形成されました。
 植物の光合成が盛んになって、酸素の量が30%を越えると、火災が起こりやすくなるといわれています。火災が大規模に起こると、酸素が消費され、なおかつ酸素をつくる植物が燃えて減少します。大気中の酸素の量は、このようは生命と地球の関係によって平衡状態になっているのです。大森林のなごりは、石炭として私たちに役に立っています。
 地球と生命の共進化がつくりだした酸素、縞状鉄鉱層、石炭、私たちの現在文明はそれを利用することによって成り立ています。大気中の二酸化炭素は、現在0.03%程度です。その値は、以前よりほんの少し増加しました。この変化は、文明が起こした地球へのほんの少しの変化でした。しかし、大気中の二酸化炭素が多ければ、温暖化が起こり、少なければ寒冷化がおこるといわれています。二酸化炭素の量は、現在着実に増加しています。そのため、地球温暖化が危惧されているのです。ほんの些細な変化ですが、最終的には人類にとっては大きな影響となってきます。これも、地球が下した、共進化という結論なのでしょう。

2001年5月17日木曜日

3_8 地球をつくるもの

 私たち住む地球は何からできているでしょうか。身近なはずの地球ですが、その全体像を知っている人は案外少ないかもしれません。地球の全体像を、他の惑星との共通点と相違点という見方をしていきましょう。


 惑星は、さまざななものからできいます。成分としては多様ですが、存在形態として区分すると、3つに分けることができます。物質の形態としては、気体、液体、そして固体となります。地球も他の惑星と同じように、3つの形態を持つ物質からできます。地球は、気体としての顔、液体としての顔、そして固体としての顔は、他の惑星と共通する点と違う点があります。
 惑星の構成物である気体は、大気と呼ばれています。地球型惑星で大気を持つ金星と火星の大気は、二酸化炭素を主成分としています。一方、木星型惑星の木星から海王星までの惑星の大気は、水素とヘリウムが主成分です。
 地球の大気は、8割は窒素、2割は酸素の混合気体です。その他に、小量の水蒸気(気体のH2O)や二酸化炭素やアルゴンなどが含まれます。地球の大気は酸素含んでいますが、他の惑星の大気には酸素がほとんど含まれていません。ですから、地球の大気は非常に特異であるといえます。地球の大気を空気と呼んで区別します。
 惑星のおける液体は、わかっているものでは水です。地球には38億年前から現在まで、消えることなく水が存在しました。成分は不明ですが火星にも水があったことがわかっています。もしかすると地球のようにかつては海があったと考えられています。しかし、現在は極地方や地下に氷として存在し、夏になると少し融けて流れる程度と考えられています。定かでありませんが、液体が存在する可能性としては、木星と土星の厚い大気の下には、水素とヘリウムの海があるのではないかと考えられています。
 水は、地球では海水と呼ばれ、海洋を構成しています。地球の表面の7割は海洋です。海水の主成分は、水、つまり液体のH2Oです。その他に小量ですが塩化ナトリウム、塩化マグネシウムなど多数の成分が含まれています。さらに地球だけの特徴ですが、中心付近(外核)には液体の部分があることがわかっています。地球の外核は、液体の鉄からできています。
 地球型惑星は、固体の多くが、石と鉄です。木星型惑星は、水素とヘリウム、石、そして氷が、主要な固体成分です。この大量にある氷が、木星型惑星の一番の特徴といえます。大量の氷があるために、木星型惑星は重くなり、多くのガスを集めて、巨大なガス惑星となることができたのです。
 地球表層に住んでいる私たちには、気体が多く、ついで液体、そして固体が一番少ないという印象がします。しかし、それは錯覚です。液体も気体も地表にいると多く感じますが、地球全体では、石と鉄が多くなっています。地表はすべて、土(土壌)で覆われているので、土が多いように錯覚しがちです。しかし、少し掘れば、そこは石の世界です。地表付近でも、量としては圧倒的に石が多くなっています。体積で見ても、質量で見ても、地球では、石と鉄が圧倒的に多くなっています。
 地球の主要構成要素の石とはどんなものでしょうか。全地球的にはンラン岩と呼ばれるものが多くなっています。カンラン岩とはその主要な構成物であるカンラン石から由来しています。カンラン石は、薄い緑色をしたきれいな鉱物です。飾り石にも使われることがあります。カンラン石とは英語でオリビン(olivine)といいます。その由来は、オーリブの実に似た色だからです。
 地球はさまざまなものからできています。しかし、その多くのものは、日ごろの目にしません。それは、私たちが地球の表層に住んでいるために、身近に感じるものが限られているからです。しかし、知識は、そのような偏った私たちの考えを、より普遍的な方向へと修正してくれます。そう、知ることが一番大切なことです。

2001年5月10日木曜日

3_7 感じないリズム

 「3_6 天体のリズム」では、天体の周期的な運動について書きました。その周期は、人間が感じやすいものについて書きました。しかし、天体の周期にはさまざなまものがあります。人間が感じることのできないリズムについて見ていきましょう。


 人間の寿命は、せいぜい100年です。ですから、一人の人間がリズムとして感じることができるのは、100年に少なくとも2サイクル以上なければいけません。つまり最長でも50年周期のものです。現実には50年周期のリズムを、リズムとして感じることが困難です。なぜなら、偶然同じことがおこったのか、それともリズムなのかが、人間にとって周期が長すぎるのと回数が少ないため、判断することができないためです。ですから、現実的には、せいぜい2、30年周期の現象をリズムとして捉えることができます。
 時計を用い、先人が残した記録をたどれば長い周期性も知ることができます。先人の残した記録は、2000年間くらいはあります。2000年間あれば、太陽や惑星のリズムは記録することができます。つまり数百年以下の周期は、人類の「感じる」最長のリズムといえます。ハレー彗星は75年ごとにめぐり、冥王星は海王星より内側に230年ごとに20年間入ってくることも、リズムとして知ることができます。余談ですが、冥王星は1999年3月に海王星より外にいきました。次は230年後です。
 1000年より長いリズムは、知ることができないのでしょうか。科学を用いれば「知る」ことができます。天体運動は方程式で表すことが可能です。方程式と計算によって周期のを求めることができます。たとえば、ミランコビッチ周期と呼ばれるものや、太陽系の銀河系内での運動が、その例となります。
 ミランコビッチ周期とは、地球の回転に含まれている長期に及ぶ周期的な変化です。有名なものには、約10万年の周期があります。この周期は、氷河期と間氷期のリズムをもたらしたと考えられています。ミランコビッチ周期には、この他に、1万9000年、2万3000年、4万1000年、5万4000年、40万年などが知られています。
 太陽系は、銀河内での運動として、ミランコビッチ周期よりさらに長い周期を持っています。太陽系は、銀河のはずれにあります。銀河は中心部は球状ですが、少し外れれば円盤の形になっています。まるで、つばの広い麦藁帽子を2枚くっつけた形、「空飛ぶ円盤」のような形です。太陽系は、その銀河円盤面上を回転運動しています。面の上を正確に回転しているのではなく、面の上下を揺れ動いています。その周期が約2000万年といわれています。また、太陽系は銀河を約2億年で1周します。2000万年ごとに太陽系は、銀河の物質の多い部分(円盤面の中心)を通り抜けます。そのとき、太陽系に何らかの影響を与えているかもしれません。たとえば太陽系を揺さぶって、太陽から離れたところにある「オールトの雲」と呼ばれる彗星の巣を撹乱して、彗星をたくさん太陽に向けて送り込んだかもしれません。もちそれが地球軌道と交差すれば、地球にはその痕跡が残されているかも知れません。衝突すれば、生命の絶滅があったかもしれません。白亜紀の終わりの恐竜絶滅はそのようはリズムの一つだったのかもりれません。
 このような長いリズムが、地球あるいは生命、人類にどのような影響を及ぼすのかはよくわかっていません。このようなリズムの記憶は、地球のどこかの地層に、成分の変化や化石などとして、残されているかもしれません。地層のこのようなリズムの解読は少しずつ始まっています。その内容はまた別の機会にしましょう。

2001年5月2日水曜日

6_7 ヒトと宇宙と

 宇宙は人類、いや生命にとって、けっして快適なところではありません。そしてどんな危険が潜んでいるのかも、まだ十分に私たちは知りません。でも私たちはそこに向かうのです。なぜでしょうか。「そこに宇宙があるから」でしょうか。

 ヒトは宇宙を目指して今も挑戦しています。そして、宇宙に関する新しい技術、新しい挑戦、新しい発見が報道されると、興奮してしまうのは私だけでしょうか。単に知的好奇心という言葉では言い表せないほどの高ぶりが生じます。
 そのような心の動きは、フロンティアスピリッツと呼ぶような、ヒトの心の奥底にふつふつと燃えたぎるような感情ではないでしょうか。このような感情は、もしかすると、ヒトだけのものではないかも知れません。もっと根源的なものかもしれません。全生命のもっている習性ではないでしょうか。
 その習性の小さな例として、適応があります。都会に進出した生物たちにその好例が見ることができます。ヒトが住み良いように作られた都市にも、いつの間にか、予期せぬ生物が住み始めています。鳩、カラス、ネズミなどは、新しい環境に適応して定住しています。さらに、習性の大きな例として、進化と呼ばれるものがああります。海で生まれた生物は、陸地に進出しました。海の生物にとって陸は、非常に住みづらい環境でした。生命が地球から宇宙に出るほど、大変なことでした。そのためには、生物としての機能を変化させなければなりませんでした。しかし、進化をやり遂げ、生命は陸に進出しました。
 このように生命には、適応や進化という武器を用いて、新天地を目指します。新しい環境が手に入れば、そこを目指して生命は進出を試みます。そして幾多の困難を乗り越えて生き物の誰かがその目的を果たします。ヒトも生き物です。そして適応し、進化していきます。新たな環境への挑戦を目の当たりにすると心が躍るのは、そのようは生物の習性が心のなかでうごめいているのではないでしょうか。かつては、大航海時代の船の乗組員に、アメリカ西部開拓時代の幌馬車隊にエールを送ったのです。現在では、南極越冬隊に、スペースシャトルの宇宙飛行士に、未知の地域や目指す探検家に、未踏の山に挑戦する登山家に、私たちは心からエールを送っているのです。そして、そのニュースに感動するのです。
 ミールが寿命を終え、新たな宇宙ステーション・フリーダムが、始動しました。ヒトは今も宇宙を目指しています。そしてこれからも突き進んでいくはずです。宇宙へのフロンティアは成功するのでしょうか。多分、ヒトという生き物の中に刻まれた、強いモチベーションがある限り、いつかきっと成し遂げるのではないでしょうか。