2001年4月19日木曜日

2_10 生命誕生の条件

 生命は、どのように誕生したのでしょうか。その答えはまだ得られていません。しかし、多分こうだと考えられるシナリオは描かれています。現在、一番もっともらしいものを紹介しましょう。
 生命誕生のシナリオは、さまざまなものが考えられてきました。時代毎に、一番もっともだというシナリオは変わってきました。最上のシナリオを選ぶには、いくつかの条件を満たしたものを採用しなければなりません。
 まず、最初の前提条件は、「生命の誕生」があったということです。そのためには、宗教的な神や、ずっと昔から生命があったという立場は否定されます。そして、最初の生命は単純なもので、やがて現生の複雑な生命に至るという進化を認めることです。これが、生命誕生のシナリオにおける最初の前提条件です。生命の誕生や進化については証拠があります。しかし、それは別のエッセイで紹介しましょう。
 つぎに、誕生の舞台をどこにするかです。無条件に地球というのは早計です。パンスパーミア説というシナリオがあります。その説は、地球以外の天体で誕生した生命が何らかの作用で地球にもたらされたというものです。これもれっきとした科学者が唱えた説です。ある程度、説得力を持っています。もし、生命の起源が地球以外だとしたら、ではそこでどのように生命に誕生したのかが、問題となります。ふりだしに戻ります。そしてそこの環境はまったく不明ですから、問題はさらに混迷を深めます。パンスパーミア説が、地球の生命起源の真実かもしれませんが、ここでは採用しません。この説を否定する根拠はありません。また、肯定する根拠も同様にありません。不可知論です。
 では、生命誕生の舞台は原始の地球とします。ですから、生命の材料は地球の表面あるいは、地球の表面近く(大地、大気、火山活動でもたらされた)ものです。そして生命の合成は、地球の表層でごく普通にあった作用でおこなわなければなりません。これが、生命誕生のシナリオにおける、誕生の場の条件です。
 生命の誕生に関する時間的制限条件があります。それは、化石による証拠です。化石の証拠を生命進化の材料とするには、最初の生物をルーツとしてその生物が現在の生物の祖先となっている考えます。これは、実は根拠がありません。例えば、地球の最初の頃には、生まれた生物はしょっちゅう絶滅していたと考えることも可能です。そうすると最古の生物化石は、現在の生物の祖先とはいえなくなります。でもそうすると、現在の生物の祖先はいつから始まったかという検討が必要となります。少なくとも現在生きている生物は、一つの祖先から出発したという証拠があります。でも、不可知論を避けるために、最古の生物まで現在の生物の祖先と考えることとします。
 最初の生命の痕跡は、38億年前のものです。38億年前の化石はまだ信憑性は定かではなく、はっきりと化石といえるものが見つかっていません。もしそれが生命であるとすれば、環境は縞状鉄鉱層とチャートが交互に堆積する環境です。そして燐酸(りんさん)を利用する生物ということはいえます。
 35億年前には、化石に残る生物が登場します。その生物は、3000メートルほどの深海の熱水噴出口付近で生活し、細胞分裂をしていました。その生物は一種類だけでなく、何種類かの生物がいました。ですから、地球誕生が約45億年前ですから、10億年間で、熱水噴出口で生きている何種類かの生命が、誕生しているという時間的制限条件を生命誕生のシナリオは満たさなければなりません。
 これが現在得られている生物の誕生のための条件です。生命誕生の物語は、この条件を満たすシナリオでなければなりません。