2001年3月15日木曜日

2_6 酸素を嫌う生き物たち

 生命といえば、生きているもののことです。では、「生きているということ」とは、いくつもの答えがあるでしょうが、答えの一つに「呼吸をする」が出てくると思います。そして呼吸とは、酸素を吸って二酸化炭素を吐き出すと考えてしまいます。しかし、呼吸とは、そのようなものだけなのでしょうか。実は、呼吸にはいくつかの方法があり、酸素の呼吸は、地球の歴史では後半の方法なのです。酸素の嫌う生き物もいるのです。
 生命といえば、私たちはヒトを規準にして考えます。しかし、ヒトは地球生命の代表としてふさわしいでしょうか。例えば酸素を吸って、二酸化炭素を吐き出す。このような呼吸は、代謝と呼ばれます。酸素呼吸は、動物や植物では共通していますが、地球生命を代表する代謝の仕方でしょうか。
 生物のエネルギー供給源は、もとをたどれば太陽にたどりつきます。太陽エネルギーの利用法で一番有名なのは、光を直接エネルギー源として利用する光合成です。光合成は、二酸化炭素を取りこみ、最終的には酸素を放出する代謝の方法です。光合成は、太陽の光の届く範囲でおこなわれます。そのような環境は、現在の地球では酸素が多い環境となります。酸素の多い環境での生活をする生物を、好気性生物といいます。
 これに対して酸化還元の化学反応を介してエネルギーを獲得する方法は、化学合成といいます。化学合成には、有機物を利用する有機化学合成と、硫黄やアンモニア、水素などの無機物を利用する無機化学合成があります。化学合成は、太陽のエネルギーを使わずに代謝する方法です。太陽エネルギーの到達しない環境には、酸素のないところが多くあります。このような酸素のない環境で生きる生物は、嫌気性生物といいます。
 地球の初期には酸素は存在しなかったので、最初は酸素を利用しない生物がいたと考えられます。そして移ろいやすい地表付近の環境より、安定した深海底などのほうが生物の誕生、発展の場としてふさわしいと考えらています。そのような環境は、過酷なようですが好熱性の古細菌、好酸性の古細菌にとっては最高の生息環境となったのです。生命の誕生から、地球の大気に酸素が多くなる約20億年前まで、地球は嫌気性生物の惑星だったのです。
 現在も、土壌中と海洋に生息する微生物の数は、地球上の全生物の過半数になりますが、その多くは無機化学反応によってエネルギーを得ている嫌気性生物なのです。
 ですから、「生き物は酸素を呼吸する」という私たちの常識は、実は一側面しか見ていないことになります。酸素が生命の星の証といいましたが、二酸化炭素と窒素の初期的な惑星大気でも生物は誕生し充分繁殖できたのです。