2001年3月15日木曜日

2_4 多数決でいえば

 ヒトは万物の長(ちょう)であるといわれます。確かに、ヒトには他の生物種にはみられない特徴がありそうです。しかし、生命全体から見れば、数は、ヒトが一番ではありません。霊長類、哺乳類、脊椎動物でも主流を占めるわけではありません。では、生命の主流派は、いったい誰なんでしょうか。今回は、多数決で考えてみましょう。
 私たちは、昔から生命を分類してきました。細かく一つ一つ分けていく分類と、一つ一つを体系立てて区分する方法をとってきました。その方法は、現在も進行中です。全生物種のうち、記載されているのは、全体の1割にも満たないかもしれないのです。まして、過去の生物も含めれば、私たちが知っている生物の全体像は、ほんの一部なのかもしれません。また、生物の体系のまだ、確定されていません。
 かつて生命は、動物か植物かの二界に区分されていました。その分類体系は、1758年にリンネが「自然の体系」でまとめました。その後、1874年にヘッケルは、動物と植物の2界以外に、バクテリアを含まない単細胞生物を区分して、3界としました。20世紀初頭には、バクテリアは新しい界(モネラ界)として区分され、4界となりました。1959年にホイタッカーが、真菌を区分して5界としました。しかし、モネラ界は、他の4つの界に比べて大きく違うことがわかっていました。
 近年、DNAやRNAなどの塩基配列を調べて、生物の近縁関係を調べる方法が普及してきました。その方法によれば、かなり客観的に生物種の関係を調べることができます。その方法によって1977年代にウースは、古細菌を真正細菌と区分し、界より上の生物区分体系のドメイン(domain)という考えを導入し、真核生物(ユーカリア)、古細菌(アーキア)、真正細菌(バクテリア)の3つドメインを提唱しました。現在もこの考えについては論争中です。
 細菌も古細菌も、核を持たない生物です。大きさは、0.5から1.5μm、長さは1から数μmです。このような小さな生物ですが、その繁殖力は旺盛です。1gの土の中に、数千から数百万の細菌がいます。ですから、数という多数決でいえば、細菌や古細菌が一番ではないでしょうか。また、生活圏は広く、深海底の熱水墳気口から、地下数千メートルの地中、90℃以上の熱水中、pH1のような酸性の温泉水中など、ありとあらゆるところで見つかります。地球のどのような過酷な環境でも生活可能です。
 私たちが日ごろ目にする生き物たち、それは、生物のほんの一側面なのです。目に見えないから少数派ではないのです。目に見えなくても多数派もいるのです。