2001年3月1日木曜日

2_3 「生命とは」再び

 「生命とは」を再び問います。私たちヒトは、動物、生命、地球という枠の中で、どのような位置にあるのでしょうか。それは、中心に位置するものでは決してありません。ヒトはどこに位置するのか、考えてみましょう。
 「2_2 生命とは」で、生命の条件を、個体、代謝、繁殖、進化ということで定義しました。その定義をわかりやすくするために、個体を「自分をもっていること」、代謝を「食べてウンチをすること」、繁殖を「子供をつくること」、そして進化を「子供が親とは少し違っていること」といういい方をしました。しかし、この言い換えが、動物を視野にしたものでした。動物以外の生き物には、この言い換えは通用しません。例えば「食べてウンチをすること」は、植物ではうまくいうことができず「光合成をすること」といっても、代謝をうまく伝えることはできません。
 私たちヒトは、動物です。ですから、もう一つの分類体系の植物のことを忘れがちです。植物は、動物とはかなり違った生き方をしています。動物からすると、植物が生きていることさえ気づかないあるいは忘れてしまうほど、その生き方は違います。生物の一番大きな分類区分である「界(かい)」という分類になるほど、動物と植物(動物界と植物界という)は違っています。「界」には、動物、植物の他に、菌、細菌、古細菌という区分があります。
 進化過程においても、現在においても、生命全体という視点でみても、動物や植物は、主流派ではありません。日ごろ目にしている目で見えるような動物や植物も、主流派ではなく、目に見えないほど小さいものが、数でも、種類でも、量でも勝っています。そして、そのような小さいものから、進化して、より大きなより複雑なものへと進化してきました。
 分類体系では、動物と植物以上に、細菌や古細菌の方が、多様で、歴史も古くなっています。特に古細菌は、原始的で古いタイプであるとされています。地球創世時代に生まれ、その後ずっと創世記の環境で、いまだに原始的な生活をおくっています。しかし、その種類は非常に多様であることが、近年わかってきました。
 動物の植物の違いよりももっと大きな違いが、細菌や古細菌にはあります。細菌や古細菌の中の分類には、どうも「界」以上の違いがあるので、「ドメイン」という「界」より上位の分類体系が導入されています。つまり、細菌や古細菌の多様性は、動物や植物の多様性をはるかに上回るものであるということです。
 私たちは、地球という構成物の中では、生命というグループに属し、生命の中でも、動物に属し、多くの動物の中のヒトという種に属します。しかし、その生命や動物、ヒトの全体像すら、私たちは知りません。いつ、どのように生命や動物、ヒトが誕生したのか、生命や動物、ヒトがどのような履歴をたどってきたのか、そして現在どのような生命がいて、どのような関係を持っているのか、充分解明できていません。私たちには、知らないことが、まだまだいっぱいあります。どれだけ、科学が進んでも、まだまだわからないことは出ています。そして、私たちヒトは、ヒトであるため、ヒトからの発想をしがちです。しかし、私たちヒトは、動物のほんの片隅の、生命のもっと片隅の、地球においてはちっぽけな構成部のひとつに過ぎないのです。そのような視点を忘れることなく地球を見ていく必要はないでしょうか。
 この内容に関しては、スティーヴン・ジェイ・グールド の「フルハウス 生命の全容―四割打者の絶滅と進化の逆説」(早川書房 刊; ISBN: 4152081783 )に詳しく書かれています。参考にしてください。