2000年9月20日水曜日

1_1 はじめに(2000年9月20日)

 「地球のささやき」をはじめるにあたって、著者である小出の自己紹介と、「地球のささやき」の構成と今後の予定を書いておきます。
 初対面ですので、ご挨拶をさせていただきます。はじめまして、小出良幸と申します。よろしくお願いします。
 私は小田原市の西はずれにある神奈川県立生命の星・地球博物館で学芸員をしています。この博物館はオープンして5年半がたちました。私が博物館に勤務して10年半がたちました。5年も10年も区切りの年です。その区切りの年に、「地球のささやき」の連載がはじめられるのも何かの縁だと思っています。
 私の専門は、地球科学あるいは地質学です。いわゆる地学です。世間の人にとって、地学は一番馴染みの薄い理科系科目ではないでしょうか。しかし、地質学ほど学問内容が多岐にわたり、素材が多様で、そして不思議な世界は、他にないと思います。そのようは世界が、このメールマガジンを読んでくださる人に少しでも伝わればと思って書きつづけようと考えています。
 私の専門としている分野は、地学の中でも、地質学、岩石学や地球化学と呼ばれるものです。もともと私は、地学が好きだったわけではありません。山歩きが好きで、自然に接する研究分野として、林学か地質学がいいなと思っていたところ、地質学を専攻することになりました。ところが、地質学に深入りするにつれて、だんだん興味がでてきて、とうとう地質学でメシを食うはめになってしまいました。
 地質学の深みにはまってしまい、山を自然の象徴として捉え、登るのが目的でなく、調べることを目的としました。山の中腹で、開けた展望を楽しむより、反対側の崖をみて楽しむまでになってしまいました。しかし、博物館にきてから、少しは正常にもどってきました。観光気分でも山を見られるようになりました。
 今、研究テーマとして興味を持って取り組んでいるのは、「地球初期に何が起きたのか」ということです。できれば、合成実験をして実証的に検証できないかと思っています。手法は簡単で、要は「ミニ地球」を作って、地球のできたプロセスを再現してみようという方法です。地球の材料(隕石)を地球の形成条件に置けば、地球を作ることができるわけです。
 科学以外にも、最近は科学教育の分野にも興味を持って、取り組んでいます。科学の世界で得られた成果は、さまざまなルートで市民に伝えられます。その一つとして、博物館は、大きな役割を担っています。博物館学というものが、その方法論を体系化したものです。しかし、その博物館学に、私はどうもしっくりしない部分があります。例えば、実物資料とデジタル情報との相互作用とその活用や、現場のノウハウを取り組む仕組みに対応できてないという気がしています。ですから、研究を続けるかたわら、研究成果を伝達の手法として、今までにない方法論が構築しようと思っています。できれば従来の科学教育とは全く違う、博物館固有の科学教育の方法論を体系化した「自然史学」というものに発展できないかと考えています。
 このような経歴を持つ私ですから、連載は、地球科学の内容となります。つまり、地球についての話をします。地球の生い立ちから現在までの「地球の歴史」、地球と生命の関わりを考える「生命の歴史」、地球がどのようなメカニズムで営まれているのかを考える「地球の仕組み」、私が今までいった地質学的に面白い地域への旅行記である「地球地学紀行」、そして人と地球の関わり方についての考え方を示す「地球と人と」という項目に分けて書いていきます。一般市民にわかりやすい文章を目指します。
 週1回程度の投稿を予定しています。連載は、毎回読みきりのエッセイ風のものにしていきます。メールマガジンにはタイトルと数十文字の要約だけを示して、本文はリンクされたホームページに載せていきます。ホームページには関連のある画像をつけようと思います。筆が進めば、1週間に何本か書けるか知れません。あるいは書けないかもしれません。そんなときのために少し書き貯めております。ホームページにはバックナンバーも掲載しておきますので途中から読まれた方も、途中を読まなかった人ももどって読むことが可能です。
 地球のささやきに耳を傾けてください。地球の音を聴いてください。地球からの風を感じてください。今まで、私たちが立っていた「よく知っている地球」から、「知らなかった地球」あるいは「新しい地球」への旅です。良い旅になることを祈っています。