2024年3月28日木曜日

1_213 月の形成 2:ジャイアント・インパクト

 月の形成でジャイアント・インパクト説が、現在では有力となってきたことを、前回、紹介しました。月の起源は二転三転しながら、ジャイアント・インパクト説に再度なってきました。


 かつては、月の起源説には、衝突説があました。それも月形成のアイディアとして、昔の人はその可能性を思いついていました。しかし、太陽系のできかたが、少し明らかになるに従って、大きな天体同士の衝突は、稀な現象だと考えられました。そして、顧みられなくなりました。
 ところが、太陽系形成の現代的なシミュレーションにより、復活しました。初期には多数の微惑星ができ、衝突合体が起こり原始惑星へと成長していきます。ひとつの公転軌道には、いくつかの大きな原始惑星へと成長していきます。そして最終段階には、大きな原始惑星同士の衝突、ジャイアント・インパクトが起こりそうなことが、シミュレーションから明らかになってきました。衝突説は、一旦は消えそうになったのですが、再度復活してきました。
 ジャイアント・インパクト説は有力ですが、課題もまだ残されており、説の詳細は、今でもいろいろと議論されています。議論の中でも、一番の注目は、月ができていく過程でしょうか。その様子はシミュレーションでしか再現できません。
 ケゲレイス(J. A. Kegerreis)らの共同研究で、2022年10月のThe Astrophysical Journal Letters誌で、
 Immediate Origin of the Moon as a Post-impact Satellite
 (月の衝突後の衛星としての短時間の起源)
という論文が報告されました。
 この論文では、高解像でシミュレーションがなされました。衝突で飛び散る粒子の数が、シミュレーションの精度となります。この論文では、1万個から1億個までの範囲でシミュレーションが実施されました。
 これまでは、10万個~100万個の粒子でおこなわれていたシミュレーションで、月ができたり、できなかったりしていました。ところが、粒子の数を1億個まで増やすと、簡単に月ができることがわかってきました。その期間は、わずか数時間ほどでできました。
 非常に短い時間で月の誕生することがわかってきました。このような短い時間は、衝突時に放出される熱エネルギーが、月に取り込まれることになります。これが、月でマグマオーシャンをつくるための用いられることになります。
 このシミュレーションでは、同時に2つの天体ができました。それについて次回にしましょう。

・送別会・
大学は、年度末を迎えています。
在校生のガイダンスや健康診断、
新入生を迎えるための準備も進んでいます。
そんな中、教職員の送別会が学部や大学で
いくつかおこなわれました。
やっと例年通り飲食ができる状態となりました。
私にとっては、久々の公的な宴席が続きます。
退職される知り合いも
数名おられるので、寂しさもあります。
ただし、職員では再雇用や教員では非常勤として
次年度からも勤務される方もおられます。

・思いつきの連鎖・
現在、本を執筆しています。
ライフワークのまとめとなります。
これまで進めてきた
さまざまな方向の研究成果が
不思議と合体してきました。
最初に別のテーマがつながると
思いついたときから、
思いつき連鎖していき、連環していました。
今は、その思いつきを
整合的につなげていく作業を進めています。

2024年3月21日木曜日

1_212 月の形成 1:起源の仮説

 月に関するいくつかの新しい知見が報告されました。まとめてシリーズにして、紹介していきます。月の起源に関していくつかの説がありました。これまでどのような説があり、それぞれでどこが課題なのかを紹介していきましょう。


 かつて、月の起源には、いくつもの説がありました。起源説としては、分離説(分裂説、親子説)、捕獲説(他人説)、集積説(兄弟説、双子)などに分類され、古くから議論されてきました。現在では、ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説 giant impact)が有力となっています。それぞれ、どのような説かをみていきましょう。
 分離説とは、古くからある説で、地球から月が分離してできたというものです。かつては地球の自転が速かったため、地球のマントル物質が飛び出して月が形成されたとする説です。地球がマントルが分裂するほど高速回転していたとすると、現在の地球と月の運動(角運動量)と合わなくなります。
 捕獲説は、太陽系初期に多数形成された微惑星の一つが、地球に捕らえられたというものです。月が地球に捕獲される時、月の運動エネルギーを減らさなければなりません。その方法は現実的ではないものになります。
 集積説は、地球と月は近くで一緒に形成され、連星の状態になったとするものです。ところが、似たような材料物質からできたはずなのに、天体全体の平均密度や平均化学組成に違いがあり、月では揮発成分が少なくなっています。月でも金属鉄の核を持つはずなの、核がないかあっても小さいと推定されています。ただし、同位体組成が似ています。
 これらの3つの説は、いずれも課題の多いモデルとなります。地球と月の岩石の同位体組成が類似しているのに、いくつかの化学組成の違いや運動(角運動量の類似)が問題となっていました。
 ジャイアント・インパクト説より前には、衝突説があり、地球に天体が衝突して、月が飛び出してできたというものです。衝突は、偶然で稀な出来事だと考えられ、もっと困難な説だと考えられてきました。しかし、太陽系初期のシミュレーションにより、多数の微惑星が形成され、衝突合体しながら成長していくことが明らかになってきました。天体同士の衝突は頻繁に起こり、衝突の終わりころには、大きな原始惑星同士が衝突するすることになったと考えれました。それがジャイアント・インパクト説で、現在では、もっとも有力な説となってきました。
 では、ジャイアント・インパクト説で、月はどのようなプロセスでてきていくのでしょうか。いろいろなシミュレーションがなされてきていますが、非常に短期間でできたという報告がありました。その内容は次回にしましょう。

・祝賀会・
先週、学位記授与式がありました。
コロナ禍も終わり、通常通りに開催されました。
その後の祝賀会も、例年通りに実施されました。
全学での開催なので、
落ち着いて話せないのですが
賑やかな会になります。
例年、祝賀会に出席しているのですが、
今年から出席を控えることにしました。
祝賀会のあとも、
学科やゼミの学生たちと
宴会をしていました。
今年度から、ゼミを持たなくなったので、
学生とゆっくりと宴席を囲む場がなくなりました。
さみしいですが、しかたがありません。

・静かな幕引き・
退職まで、あと1年となりました。
失礼にならない程度に、
静かに幕引きをしたいと考えています。
本来なら、退職1年前は校務分掌も
最低限となるはずです。
諸般の事情で、役職に就くようになりました。
しかたがない事情なので引き受けましたが、
それを最後の奉公と思って、
つつがなく務められればと思っています。
サバティカル以降、少しずつですが、
定活(定年活動)を進めています。

2024年3月14日木曜日

6_209 AIで最初の星 4:銀河考古学

 最初の星に由来する元素を、AIで解析した報告がありました。太陽系近傍の若い星には、複数の星に由来する元素が用いられていました。これは、銀河、宇宙の形成の時空間へ、情報を与えることになりそうです。


 観測で調べた若い星の元素組成を、AIで解析した報告がなされました。すると、ひとつの最初の星に由来する元素からだけではなく、複数の星に由来することがわかってきました。この結果は、どのような意味があるのでしょうか。
 星は、形成場の周辺に存在している元素が素材になります。今回の報告では、若い星の形成場には、いくつもの最初の星に由来する元素がありました。形成場は、複数の星の超新星爆発が起こり、元素が混在していたことを示していました。これは、最初の星は、同時期に形成され、同時期に超新星爆発を起こしたことを意味しています。
 複数の最初の星の元素が集まっているということは、近くに最初の星がいくつも形成されていた状態、つまり星団となっていたと考えられます。これは、宇宙創成期に、星の形成場では、星の分布が不均質だった可能性を示していそうです。
 最初の星の様子を、形成時期だけでなく位置関係も推定させることになってきました。これらの内容は、最初の星の誕生のシナリオでも考えられていましたが、今回の報告で、その証拠が示され、定量化もできたことになります。
 さらに、超新星の元素合成であらゆる可能性での元素組成をシミュレーションして、AIに学習させました。その学習結果を、現実の観測値このような過去の星「最初の星」の様子を推定に利用するというアイディアは素晴らしいものでした。そして、太陽系近傍の星に適用してえられた結果は、今後、全宇宙の適用していく時の重要な作業仮説にできます。
 このような研究手法は、過去の銀河や恒星の探査は「銀河考古学」と呼ばれています。銀河考古科学には、星の元素の特徴を用いて調べるほかにも、星の分布、星の運動などを用いても研究が進められています。近年、観測衛星の高精度のデータから、星の固有運動を正確に決定できるようになってきました。星の運動を用いる研究も、進められています。
 太陽系の近くの恒星から、古い銀河、宇宙開闢の様子を探ろうとするアイディアは面白いですね。

・マスク・
集中講義が終わり、3月のバタバタも
これで一段落となります。
今週末には、学位記授与式がおこなわれます。
コロナ禍以来、やっと通常の学位記授与式となります。
まだ教職員にも学生にも
マスクをしている人が、まだ何割かいます。
そのため、素顔を覚えることなく
卒業していく学生もいます。
街で素顔の卒業生とすれ違っても
見分けがつかないかもしれません。

・定活・
今年から、かつての状態に戻り
全学の卒業を祝う会がおこなわれます。
今年からゼミを持たなくなったので、
身近な学生との懇親会がなくなりました。
コロナ禍が終わって、やっと学生との
宴会ができる状態になったのですが
学生との飲み会ができないのが残念です。
まあ、定活(定年退職に向けての準備)と思って
少しずつ、変化に慣れていきましょう。

2024年3月7日木曜日

6_208 AIで最初の星 3:スペクトル分析

 恒星の元素組成は、光のスペクトル分析で調べることができます。最初の星の超新星爆発で形成される元素組成は、理論から推定することができます。両者を、AIを用いて解析することで、新しいことがわかってきました。


 恒星の元素組成は、どうして知ることができるのでしょうか。恒星の光の観測から推定できます。私たちの太陽も同じ方法で調べることができます。
 太陽を例にしましょう。太陽からでている光を、プリズムを通すと波長ごとに分けることができます。その様子を詳しくみていくと、明るい線や暗い線がたくさん見つかりました。
 明るい線(輝線)は、太陽の内側で輝いているところに多くある元素が出している光で、その波長の特徴を示しています。一方、暗い線(暗線)は、太陽が出している光が、外側の大気中にある元素に、吸収された光の波長の特徴を示しています。光の波長ごとの特徴から、恒星(太陽)の元素組成を知ることができます。
 このような方法をスペクトル分析といいます。遠くの星のスペクトル分析ができれば、その元素組成も調べることができます。これは恒星の観測データから、その星の元素組成が決めることを意味しています。
 一方、最初の星の内部の核融合のプロセスが理論的に計算できます。同様に、超新星爆発で合成される元素組成の計算もできます。こちらは理論的に最初の星の元素組成を想定することができます。ただし、最初の星のサイズが異なれば、元素組成も異なってきます。
 二代目の星は、最初の星とその超新星爆発で形成された元素組成と、周辺のビックバンでできた元素からできるはずです。何代目がわからないとして、重い元素の少なければ、若い星とみなせます。若い星の元素組成を観測して調べていきます。
 この論文の工夫された点は、最初の星の超新星爆発で形成される元素組成を、いくつものパターンを理論的に計算して、AIを用いて観測した星が、どのような組成の超新星爆発からできかを区分していったことです。
 AIの解析により、ひとつの超新星爆発の元素でできた星と、複数の超新星爆発でできた星が、区別できようにました。太陽系の近くにある462個の重い元素を含まない星を調べた結果、31.8%がひとつの星から来た元素であることがわかりました。このような星をモノエンリッチ(mono-enriched ひとつに富む)と呼んでいます。それ以外の68%ほどが、複数の超新星爆発による元素からできていることがわかってきました。このような星をマルチプリシティ(multiplicity 多元素性)と呼んでいます。
 これは、どのような意味をもっているのでしょうか。次回としましょう。

・事前指導・
現在、集中講義の最中です。
教育実習のための事前指導のための
授業となります。
ゴールデンウィーク開けから
教育実習がはじまります。
その前の準備となります。
先生として実際の授業を進めてきます。
はじめてのことなので、
なかなかうまくいかないでしょうが
実際の体験すること、
失敗することも重要です。
学ぶことが多いと思います。

・著書の執筆中・
著書の執筆を進めてみます。
当初予定より、1月ほど遅れてスタートしました。
それは、この著書に関係する
論文の草稿を執筆していたためです。
その論文や著書を書きながら
構想を深めてきました。
おかげで、これまで大学で研究してきた
いくつかのテーマがすべてつかって
総括できるような内容に発展してきました。
あとは、その内容をどこまで深めていけるかですが、
これが、なかなか難しく、頭を使う必要があります。
3月中になんとかまとめたいと考えています。

2024年2月29日木曜日

6_207 AIで最初の星 2:超金属欠乏星

 最初の星を見つけるのは難しいのですが、最初の星に近い初期の星なら、見つけられます。初期の星のデータを集めてAIに解析させることで、最初の星の様子を探ろうとしました。


 AI学習による最初の星の探査は、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の客員研究員のハートウィグ(Tilman Hartwig)さんたちの共同研究で、Astrophysical Journalという雑誌に、
論文タイトル:Machine learning detects multiplicity of the first stars in stellar archaeology data
(機械学習が恒星考古学データから最初の星の重複性を検出)
というタイトルで報告されました。
 「最初の星」とタイトルにありますが、直接観測できないので、初期の星から探ろうとするものです。重い元素は、最初の星の中と超新星爆発で合成されていきます。ですから、古い星を探して、その成分に重い元素が少ないほど、初期の星となっていきます。
 重い元素を多く含む星を種族I(population I)と呼んでいます。少ないものが種族II(population II)となります。最初の星は金属をまったく含まないので種族III(population III)と呼ばれています。前回紹介したように、種族IIIの星は見つかっていません。種族IIIに限りなく近い種族にIIの星が研究対象になります。
 そのような星は、「超金属欠乏星」と呼ばれています。これも前回のエッセイの【註】に示したように、リチウムより重い元素は、天文学では「金属」と呼ばれます。そのため重い元素(金属)が極端に(超)少ない(欠乏)星となります。
 重い元素の少ない星の特徴が調べられました。初期の星が、最初の星に由来する元素をもとにできていたら、最初の星の個性をもっているはずです。なぜなら、最初の星のサイズや超新星爆発の特徴により、元素組成にも特徴が現れるからです。元素組成の個性に乱れがあれば、複数、あるいは多数の最初の星の影響を受けていたことになります。
 元素組成のパターンを機械学習したAIを使って、調べていったというのが、この論文となります。その結果は、次回としましょう。

・閏年で29日・
今年は閏年で29日もあった
2月も最後となります。
2月は短く感じました。
それは、授業はなくなっていたのですが、
研究での作業が詰まっていたため、
バタバタとしていたためでしょう。
そのバタバタはまだ終わっていないのですが
充実はしています。

・集中講義・
3月上旬には、集中講義があります。
そのため、1週間、そこに忙殺されます。
学生もその間だけでなく、
準備にも時間を使います。
その相談のために研究室にもきます。
それも教育、指導になります。
熱心な学生ほど集中して準備に取り組んでいます。
ですから、手を抜くことも、
時間を惜しむことはできません。

2024年2月22日木曜日

6_206 AIによる初代星の探査 1:初代星

 いろいろな分野でAIの導入が進められています。天文学でも導入されていますが、2023年にでた論文では「最初の星」をAIで探したました。その論文を紹介していきましょう。


 「最初の星」をAIで探すという研究が報告されました。まず、「最初の星」とはどんなものがを考えておきましょう。それがわかっていないと、見つけることができません。
 「最初の星」は、「初代星」(first star)とも呼ばれていますが、宇宙ができた直後の星になります。「最初の星」は、宇宙の創成のときに存在した材料だけから作られていきます。ここでいう宇宙の創成とは、「ビックバン」のことです。
 ビックバンで形成された元素は、理論と観測でわかっています。ビッグバンで合成された元素は、水素(H)とヘリウム(He)がほとんどで、あとは少量のリチウム(Li)だけです。つまり、「最初の星」は水素とヘリウムからでできたことになります。
 天文に詳しい人であれば、太陽系の恒星(太陽)も、水素とヘリウムからできていることをご存知だと思います。しかし、太陽の構成元素を詳しくみていくと、水素とヘリウムが多いのですが、リチウムより重い元素がいろいろと見つかっています。重くなるほど量は少ないですが、明らかに太陽には存在してます。この重い元素は、ビックバンのときには存在しなかった元素です。ですから、私たちの太陽は「最初の星」ではありません。
 では、重い元素は、どうしてできるのでしょうか。恒星の中で、水素とヘリウムなどが連鎖的に核融合を起こして、鉄(Fe)までの元素ができていきます。恒星内では鉄までしかできませんが、星が一生を終えるときに起こる超新星爆発で、鉄より重い元素が形成されます。ですから、重い元素は、少なくとひとつの恒星ができて、終焉を迎えていないと形成されません。
 「最初の星」は、重い元素を含まない水素とヘリウムからだけの星だといえます。そのような星を探せばいいのです。しかし、「最初の星」は、現在のところ、どのような観測装置を使っても、まだ見つけることはできていません。小さなものは遠くにある(古い)ので暗くて見えないでしょうし、大きくて明るい星はすでに寿命が尽きているでしょう。
 最初の星がだめなら、第2世代の星を見つけることで、そこから最初の星の特徴を探ろうとしています。その手段にAIを導入したという研究が報告されました。その詳細は、次回以降としましょう。

【註】リチウムより重い元素は、天文学では「金属」と呼ばれるのですが、ここでは重い元素と呼ぶことにします。

・外国人観光客・
今年は2月11日まで、
札幌の雪まつりがありました。
中国の日本への旅行も解禁されていて
春節(2/10から2/17)もあったので
海外からの観光客が多くなりました。
寒い中を長時間歩いて見て回ったら
風邪を引いたことがあり懲りました。
今では、雪まつりはテレビで見るだけです。

・祝日の連休・
2月の祝日は、2回あります。
建国記念日と天皇誕生日です。
11日と23日で日程が近くなっています。
それに今年は、曜日の関係で
両方とも連休となります。
実は札幌で訪れたいところがあります。
出かける日程を連休をずらして、
平日にしました。
このエッセイの発行は
木曜日にしているので、
今日、出かけている予定です。

2024年2月15日木曜日

1_211 テクタイト 5:継続する研究

 インドチャイナイトは、非常に広範に分布しています。近年、研究が進み、形成時代や温度などの実体が、徐々に明らかになってきました。このテクタイトを形成した衝突は、生物にどのような影響を与えたのか気になります。


 インドチャイナイトでは、これまでのエッセイで、ラオス南部のボーラウェン高原に落下した隕石によるものだという報告を紹介しました。巨大なクレータができたのですが、その後、火山活動による溶岩で、クレータが埋められたということを、人工衛星からの重力や磁力のデータから示され、やっと位置が特定されました。
 他にも、インドチャイナイトに関する研究がいくつか進められています。2019年にMeteoritics & Planetary Science誌に発表されたジョーダン(Jourdan)らの共同研究による
Ultraprecise age and formation temperature of the Australasian tektites constrained by 40Ar/39Ar analyses
(40Ar/39Ar分析によるオースタラリアンテクタイトの超高精度の年代と形成温度への束縛条件)
という論文があります。
 この論文では、タイ、中国、ベトナム、オーストラリアからそれぞれ一つずつテクタイトを採取して、2つの研究所で3つの測定器を用いて、データが検証されました。加熱しながら測定するという手法でも、精度を上げるようにしました。その結果、40Ar/39Arによる年代は、78.81万年前(78.81 ± 0.28 万年前)となり、これまでより数倍の精度で年代を決めました。また、タイのテクタイトで温度推定がなされました。形成時の最低温度は、2350~3950°Cとわかってきました。
 公表時代は前後しますが、2022年の同誌に発表された論文で、千葉工業大学の多田賢弘らの共同研究による
Identification of the ejecta deposit formed by the Australasian Tektite Event at Huai Om, northeastern Thailand
(北東タイ、フアイオムでのオーストラリアンテクタイト事件による放出物堆積の特定)
という論文があります。
 この論文では、フアイオムの地質調査から、3つの放出物を含むラテライト(鉄やアルミニウムの水酸化物を多く含むサバンナや熱帯雨林に分布する土壌)層から、テクタイトを見つけています。下位には衝突時で再構成された層があり、その上に粗粒の砂とテクタイトの降下物の層ができ、もっとも上には細粒の降下物の堆積層があることを示しました。そして、それらの層には、衝突石英もあることを明らかにしました。
 他にも、テクタイトの分布範囲から、クレータのサイズを33~120kmと推定したり、イリジウム濃度から重量15億tの隕石だったという推定などもされきました。多くの研究者のさまざまな視点での研究によって、インドチャイナイトの実体が少しずつ明らかになってきました。
 隕石のサイズとしては、大絶滅を起こすほどではなかったようですが、このテクタイトの分布域の広さを見ると、その衝突の衝撃は非常に大きなものだったと想像できます。約80万年前は、原人がこの地域にもいたはずです。彼らは絶滅したのでしょうか。アフリカにしか生き残れなかったのでしょうか。ヒトの進化との関係が気になりますが、このシリーズはここまでにしましょう。

・湧き出るアイディア・
現在書いている論文に手こずっています。
来年、出版しようと考えている本の
重要な視座を決める内容なので、
重要な論文になります。
別の論文を書いている時に
新しいアイディアが浮かびました。
そのアイディアが連鎖しながら発展して
この論文の骨子へと繋がりました。
さっさと書けると思っていたのですが、
データを大量に扱い、文献を収集して内容を確認し
なければなりませんでした。
すごく手間がかかっていますが、
近いうちに粗稿ができそうです。
粗稿ができた段階で、この論文は一旦休止します。
本命の著書に執筆を急がなければなりませんので。

・分割した論文・
論文に関しての話題が続きまます。
前回投稿予定の論文は、重要な内容で
長いものになりました。
編集担当の人に相談したら、長編の論文は掲載できない。
しかし、同一著者の別の論文の掲載は可能だ。
ということなので、
いくつかに分けることにしました。
すると3編の内容に分割でき、
そのうち2編を雑誌に投稿しました。
そして残りの1編を、
別の雑誌に投稿するつもりで完成させました。
その時、上記の新たな論文のアイディアが
次々と湧いてきたのです。